カテゴリー別アーカイブ: ハクダイのブログ

マンガと宗教(朝日新聞6月5日の記事を読んで)

6月5日付けの朝日新聞に、 ” マンガに息づく宗教性 「存在の根っこ」求め格闘 「自分を超えたもの」感じる ” という記事がありまして、興味深く読みました。

 宗教者や研究者らが、マンガの中の宗教性に注目している、ということで、幾つかのマンガを取り上げています。

 教義や宗教儀礼とは関係なく「聖なるもの」「実存の支え」などとしての「広義の宗教性」という前提になります。

ここで具体的に取り上げている作品として次の3作品。 

・『リアル』井上雄彦 求道性を帯びている(きゅうどう、と読まずに ”ぐどう”と読む)

・『銀の匙(さじ) Silver Spoon』荒川弘 「もうひっとつの生き方」を探す

・『どんぐりの家』山本おさむ 生の根源を意味する『いのち』そのものを描いている

 「哲学」と「広義の宗教」がどのように違うのか、あんまり理解出来ていないハクダイですが、今更「宗教」という言葉を持ち出すまでもなく、シンプルにこれら3作品は(言うまでもなく)優れた作品だと思う次第。

 ハクダイ個人の感覚だと荒川弘作品なら「鋼の錬金術」の方が「宗教」性は高いし、宗教性の高い作品というなら、ジョージ秋山「捨てがたき人々」あたりになりますでしょうか。51歳でなくなった たかもちげん氏の『祝福王』が広義どころか、どストレートに宗教を描いていましたね。たかもちげん氏は望月三起也氏のアシスタント時代があるのが意外といえば意外ですね。

 

辰巳ヨシヒロ追悼シリーズ2 マンガ編集者タツミ

おはようございます。午前中からブログ更新は初めてかな?

今週はメール(お問い合わせフォーム)経由で、辰巳ヨシヒロ氏が貸本末期に発行人(あるいは編集人)として係わった短編集について情報を頂きました。情報提供してくださったH様には改めて御礼申し上げます。情報概要:『青春』『学園』『鉄人』『女学生自身』の別冊等含めての号数情報。

 さっそく、提供された情報を盛り込んで、内容を一部加筆修正したのですが、改めて、辰巳ヨシヒロという一人のマンガ家の「マンガ」との係わりの深さと広さに驚嘆します。「マンガ」というメディアに、実際の描き手として係わることを手始めに、編集から出版、他のマンガ家の手伝い、そして古書マンガ専門店のリアル店番まで、何でもこなしてきたのだから、凄いモノです。エージェントが仲介するのが一般的な海外での出版に係る「契約作業」も自分で行っていた、というのだから畏れ入ります。

 経済的(生活上)に必要に迫られての事であったという側面もあるのでしょうが、辰巳氏のように、何でもやってしまった人、というのは極めて珍しいケースと言えるでしょう。

 ハクダイは、一度だけですが、経営されていたマンガ専門古書店のドンコミックで”店番”している辰巳先生に「著作への署名」を御願いしたことがあります。若気の至りというやつですが、失礼極まりない事だったかもしれません。辰巳先生は、嫌な顔ひとつせず、サインして下さいました。

コミックビーム6月号を読む

定期購読しているマンガ雑誌は、現在は無いのですが、たまあに、衝動買い的にマンガ雑誌を買ってしまいます。

先週土曜日、夕方、外出ついでに立ち寄った本屋のマンガ雑誌コーナーであれこれ迷った末に購入したのがコミックビーム6月号です。1年ほど毎月買っていた時期があったのですが、あれこれ記憶を手繰り寄せてみるに、もう10年くらい前の事に気付き愕然(というのは大げさ)としたのでした。

公式サイトはこちら ←クリック

青林工藝舎さんのアックスとお互いに広告を出し合っているのですね。近年のマンガ雑誌界の勢力分布?読者対象の棲み分け状況?うまい言葉が見つかりませんが、マンガを取り巻く全体像が、あまり見えていないハクダイですが、この”相互広告”には納得ですね。

最初から最後まで一通り読んでみましたが、ああ、自分も歳を取ったなあ、世の中こんな感じで動いているんだなあ、と社会勉強モードに入ってしまいますね。

個人的に面白かったのは、

(1)夜は千の眼を持つ/上野顕太郎 189回とは恐れ入ります。

(2)まんが家総進撃/唐沢なをき 毎度の事ながらモデルのマンガ家さんが居るのかなあ?とか考えてしまいます。

(3)SCATTERスキャッター あなたがこここいてほしい /荒井英樹  自分にとってはある意味”怖い”存在のマンガ家さんですが、タイトルのスキャッターとはどういう意味なのでしょうか?撒き散らす、という動詞のようですが。第40話目、単行本6巻が刊行中、とのことで、最初から読んでみたくなりました。

(4)私を連れて逃げて、御願い/松田洋子 妄想と現実の区別、バーチャルとリアルの境界がアイマイになってきているのが、今、という時代なのかもしれません。イタイと思うハクダイこそがイタイのか?

 

辰巳ヨシヒロ 追悼シリーズ1 おばけの子

皆さん こんにちわ、ハクダイです。

3月7日に御逝去された辰巳ヨシヒロ先生を偲ぶ会の日程が決まったようです。以下に公式サイトのリンクを貼っておきます。

映画「TATSUMI」

上記サイトのお別れの会(偲ぶ会)のページ

 追悼の意を込めて、あまり知られていない辰巳作品を僭越ながら何回かにわたって紹介したいと思います(ハクダイ自身、未読作がタクサンありますが)。

 今回は、第一ジュニアコミックス新書判の「泣くなおばけ」を紹介します。『泣くなおばけ』として2つの話しを収録~第一話『おばけの子」39p、第二話として『泣くなおばけ』51p、です。

 この作品の発表時期の詳細は何かとヤヤコシイ部分がありますが、それは、さておき1965年~1966年頃に制作された作品と言えます。この時期は、マンガ家(劇画家)辰巳ヨシヒロとしては、どちらかと言えば不遇な時代で、ハクダイ作成の「辰巳ヨシヒロ・ヒストリー」では、「 第5期 貸本衰退期~出版人としてのサバイバル」に相当します。この期間に描かれた作品は、辰巳ヨシヒロの膨大な作品群の中でも軽視されがちな傾向にあると言って差し支えないかと思いますが、ハクダイ個人としては、愛着のある作品が多いです。

以下あらすじです。

『おばけの子』

 チビチビと周囲から、いつも、からかわれているヒロシには誰にも言えない秘密があった。なんと、ヒロシの右腕は、いわゆる妖怪ろくろ首の首よろしく、数メートル以上も伸びるのであった。こども心に、この秘密が周囲に知れたらどんな不幸が待ち受けているかを悟っていたヒロシであったが、ある日、池で溺れそうになっている女の子を助けようとした事から「秘密」を不良グループに知られてしまう。不良たちは、秘密をネタにヒロシを脅し、悪事の片棒を担がせようとするが・・・・。

『泣くなおばけ』

 ケン一(けんいち)は自分が「デベソ」であることを、とても恥ずかしく思っていた。ある日、思い余ったケン一は、包丁でデベソを切り取ろうとしたところ、デベソが「3本目の手」のように成長し始めているのに気づく。3本目の手は次第に大きくなり、神経も通いスケッチを描くまでに成長する。3本目の手との「共生」もうまく行っていたケン一だったが、「仕立て屋の金次」なるスリの名人に、3本目の手の秘密を知られてしまう。金次は、ケン一にスリの手伝いをさせようとするのだが・・・・。

 以上、あらすじを読んで頂ければお分かりのように、映画TATSUMIや「劇画漂流」から辰巳ワールドを知った方には、トンデモナイ脱力系マンガ、にしか映らないかもしれませんが、辰巳作品の魅力の一つであると断言しますね、ハクダイ的には。辰巳氏自身が考えていたモノとは大きく異なるカタチで成長していく「劇画」を横目に見ながら、零細な出版ビジネスを、なんとか軌道に乗せようと悪戦苦闘しながら、辰巳氏はマンガを描いていた、と言えるだろう。

●この2話分の「おばけモノ」の成り立ち(発表から単行本化)については、貸本末期の頃という事もあるのでしょう、とてもヤヤコシイ事になっています。手持ちの資料を一部推測を交えて再構成すると次のようになります。

 B5判雑誌で発表した「おばけ」シリーズ2作品(共に16p)を、A5判貸本用にアレンジ(各コマの再構成~ページ数増加)。その後、そのA5判のモノを、そのまま新書判へ転用。ハクダイはそのように考えていますが、B5判雑誌掲載分(マンガジャイアンツ掲載分)に、残念ながら当たれていませんので、確証はありません。

 以下は、雑誌発表から単行本収録までの流れになります。

 (1)雑誌掲載の『おばけの子』マンガジャイアンツ(日の丸文庫)1966年(昭41)1月号/16p/B5判:青林工藝舎「大発見」年表に記載あり 

 (2)雑誌掲載の『泣くなおばけ』マンガジャイアンツ(日の丸文庫)1966(昭41)年5月号/16p/B5判:青林工藝舎「大発見」年譜に記載あり 

 (3)A5判貸本「お化けの子」・発行年は、短編誌「青春31集」の広告があることより、1966年(昭41)12月頃

 収録作は3作で、③の『どしゃ降り』については年譜に記載あり。マンガジャイアンツ1966年7月号*詳細不明 と記載。 また、このA5判貸本判「お化けの子」のついては、年譜では触れていません。

 ①『お化けの子』39p ②『泣くなお化け』おばけの子第2部/51p   ③『どしゃ降り』27p

(4)新書版『泣くなおばけ』・第一ジュニア・コミックス 奥付には発行年月日の記載は無いが、著作権マークに続けて「1969 Y.TATSUMI」とあるので1969年(昭44)の刊行と思われる。

 収録作は3作品で、作品①『泣くなおばけ』として2つの話を収録~第一話として『おばけの子」39p、第二話として『泣くなおばけ』51p、作品②『タイムトンネル』37p、作品③『雨と凶器』32p。

☆(3)と(4)に収録されているモノは丸っきり同じ原稿のようです。

おばけの子

新書判のカバー。辰巳先生の写真があります。

おばけの子 (4)

手持ちのA5判貸本はカバー欠です(涙)

おばけの子 (3)

『おばけの子』より。小学生?ですが、何年生かは特定できないです。

おばけの子 (2)

『泣くなおばけ』より。おなかから手が出ています。日の丸小学校・・・・御愛嬌です(掲載誌が「マンガジャイアンツ」ですので)。

おばけの子 (1)

『泣くなおばけ』より。こちらも、「光伸」病院、やっぱり御愛嬌です。

マンガで読むロックの歴史 Paint it Rock を読む

ハクダイは(一応)ロックファン(のつもり)なので、ロックの歴史本も嫌いじゃないです(なんか、歯切れ悪いなあ)。

そんなわけで、今、標題の「Paint it Rock」を読んでいます。

ちなみに、ガイマン賞2014 ←クリックで公式サイト にノミネートされた作品です。

ガイマン賞について上記の公式サイトより引用要約しますと、次のようになります。

「ガイマン(GAIMAN)」とは、アメコミ(アメリカ合衆国)やバンド・デシネ(フランス語圏)、マンファ(韓国)など、日本以外の地域で制作された海外のマンガ全般を指す造語です。
ガイマン賞は、2011年から2014年度まで、これまでに4度開催されております。
 主催は次の3組織。
・京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター
・明治大学 米沢嘉博記念図書館
・北九州市漫画ミュージアム

 さて、この「Paint it Rock」ですが、出版元のdisk UNION のサイト に見本というか、本文が10ページほど紹介されていますので、それを見ていただくのが手っ取りはやいです。

 韓国のマンガ(マンファ)について詳しく知らないので、”マンファ”を読む(知る)には良い機会と思い購入に至り、全体の2割程度を読み終えたところです。

 実際に読み始めると、日本人が親しんでいる「ストーリーマンガ」ないしは「コミック」というより、イラストを多用した解説本、という理解の方が適切かもしれないですね。テキストだけを読み進め、テキストの脇に添えられた、テキスト内容に関連したユーモアの効いた1~4コマのマンガを読む、という感覚に近い読書行為になるでしょうか? いわゆる「絵物語」(冒険ダン吉、山川惣治作品など)に近いと理解できるかもしれません(絵物語については、ほぼ素人なので、あんまり当てになりませんが)。

 「技法」なり「体裁」の問題はさておき、ロックの入門書としては最高レベルにあることは間違いありません。まず、情報量が多すぎず少なすぎずで丁度よいと思います。ミュージシャンだけでなくDJやプロモーターなどが果たした役割、そして、(当然ですが)個々のミュージシャンが活躍した時代背景も、丁寧に説明されています。

 まだ全体の2割程度、ビートルズがアメリカで大活躍「ビルボード・ジャック」あたりを読んでいるのですが、既に満腹感がありますね(苦笑)。

Paint it Rock