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4.ハクダイの蔵書より-山森ススム作品紹介その3

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管理人ハクダイの蔵書より/山森ススム作品の紹介その3

☆作品紹介10/死刑はいやだ

 山森ススム50p/雑誌形式/オッス第8集/日の丸文庫/A5判/1961年(昭36)/160円/奥付にPrinted in 1961.9.10と記載 

あらすじ不良仲間3人と喫煙行為に及んでいる実(みのる)だが咳き込んでしまう。不良仲間の1人は、実へ「モクがすえねえようでは俺たちの仲間とはいえねえぞ」といきがる。
その場へ現れた実の友人の仁は、不良たちに「実君を仲間へひきずりこむのは、よしたまえ!」と強く言い放つ。不良たちは仁へ実を追い払えとけしかけ、実は手にナイフを握らされる。
 物語は、不良仲間が殺人事件を起こしたことで急展開する。実は、自分に殺人容疑がかかっていることを仁に知らされて慌てる。しかし仁は、実に外国へ逃亡する事を勧め、完全に警察の目を逃れる「ある方法」を教えてやる、と言う。
 はたして、その「警察の目から逃れる方法」とは、実に奇想天外な方法でだった。ある薬を服用することで「急激に老け込み、老人になる」、というモノだった。実は、その「老け薬」を飲むのか飲まないのか?そして実は改心するのか?

2色カラーの作品扉。「劇画工房」の記載あり。
2色カラーの作品扉。「劇画工房」の記載あり。
時代は今から50年以上前。学生服での喫煙シーン。
時代は今から50年以上前。学生服での喫煙シーン。
背景の陰影の付け方に山森作品の特徴が見られる。
背景の陰影の付け方に山森作品の特徴が見られる。
追走する警官たち。走るシーンも山森作品では定番である。
追走する警官たち。走るシーンも山森作品では定番である。

解説劇画工房のマークはないが、扉ページに「劇画工房」と活字で記載がある。劇画工房は8名が参加していたが、最後は石川フミヤス、桜井昌一、山森ススム、K・元美津の4名のみが残る形になった。正式な解散声明は出ていないようである。このあたりの経緯についてご存知の方がいらっしゃればお知らせいただけるとありがたい。
発表時期1961年(昭36)から50数年が経過した現在からみればいささか稚拙なストーリーかもしれないが、心根が優しいのに不良ぶりたい実の心情、そして殺人者になってしまうことへの恐怖がリアルに伝わってくる。

☆作品紹介11/選ばれた犯罪

 山森ススム/60p/雑誌形式/摩天楼第14集/兎月書房/A5判/150円/1959年頃(昭34) 

あらすじ父をギャング団に殺されてしまった明は、死んだ父の旧知であった北大路の家に寄宿している。北大路は、明に「父の事は思い出さないほうがいいよ、悲しむだけだ」、「この屋敷を自分の家と思え」と語り、親身になって面倒を見てくれている。
ある夜、北大路は明に「君の大好きな本を買って来たよ」と言い、「劇画短編集摩天楼16集」を勧めるのであった。その摩天楼には、「実話ミステリー新人入選」の発表があり、どうやら明自身も応募していたようである。
明は自分の応募作が落選した事に少し落胆しつつも、第1位入選の「追われる」西王路竜三・作を読み始める。死刑囚からの取材を得て事実に基づいて構成したものである、との記述で始まるこの作品は、8千万円の現金輸送車襲撃事件を題材にしていた。
現金輸送車を襲撃した2人組の男は、下水道を逃走に利用するが、下水道の維持管理作業員に見つかり、その作業員を殺してしまう。犯人の2人組は結局仲間割れし、作業員を撃ち殺した男は作業員に変装することで逃走に成功するものの、もう1人は逮捕される、という内容であった。
明は父が殺された時の状況と、この作品の内容が酷似している事に気付き、父を殺したのは自分の面倒を見てくれている北王路なのではないかとの疑いを抱く。

劇中劇として、収載誌である「摩天楼」自体が挿入され、二重構造の物語になっている。

「選ばれた犯罪」扉ページ。
「選ばれた犯罪」扉ページ。
桜井昌一、石川フミヤス、K・元美津、劇画工房同人がさらりと盛り込まれている。
桜井昌一、石川フミヤス、K・元美津、劇画工房同人がさらりと盛り込まれている。
地下道を使った入れ替わりトリック。
地下道を使った入れ替わりトリック。
最終ページ。メガネの男は、作品を応募した劇画家。
最終ページ。メガネの男は、作品を応募した劇画家。

解説摩天楼寄稿作家、すなわち劇画工房同人の作品について、さらりと明に語らせているのがご愛嬌である。

「これは桜井昌一先生のだな、独特な画風にストーリィのスムースなのが好きだ」
「石川フミヤス先生のだ、友情物ならナンバー1だ」
「ハハハ……K・元美津先生のは面白い上にストーリィがとてもいいや」

劇中劇という点と、マンホールと下水道を使用した現金輸送車襲撃のトリック、そして、ギャング団の仲間割れと逃走トリックが作品全体に十分な効果をもたらしているだけに、終盤の展開には、個人的には不満が残るところだ。

☆作品紹介12/雨降り

 山森ススム/30p/雑誌形式/オッス第6集/日の丸文庫/A5判/1961年(昭36)/150円 

あらすじ大都会大阪。ラッシュアワーの大阪駅で、電車へ乗り込む人々の背中を押す男。彼は5年間も無償で乗客の背中を押し、ラッシュアワーの混雑時、電車の適正な運行に貢献してきた。駅長から表彰された事もあり、いつしか「背中押し」で有名な男になっていた。
しかし「ぼく」は、この「背中押しの男」が信用できない。「背中押しの男」は、ある「完全犯罪」を企んでいるのではないのだろうか?親切な男としての評判を隠れ蓑に、「殺したい奴」を線路から突き落として轢死させてしまう事も彼なら出来る。なぜなら、彼はいつも混雑時のプラットホームに立っているのだから。
そして、とうとう「ぼく」は、この疑問を「背中押しで有名な男」に直接、ぶつけてみるのだが……。
「背中押しの男」は名物キャラ「北王路竜之介」が演じている。

「雨降り」扉ページ。
「雨降り」扉ページ。
昭和36年頃も、ラッシュアワーは存在したということか。
昭和36年頃も、ラッシュアワーは存在したということか。
昭和36年頃でも、通勤時、電車は混雑していたようである。
昭和36年頃でも、通勤時、電車は混雑していたようである。

 

左ページ左上のコマは、蛭子さんへ影響を与えていると思わせる。
左ページ左上のコマは、蛭子さんへ影響を与えていると思わせる。

解説扉ページに「ムードミステリー」と記載がある。雨、そして、大きな駅の群集シーンをモチーフに山森ススム作品ならではの味わい深い世界観が表現されている。ハクダイには、永島慎二の影響があるように感じられるが、いかがだろうか。いや逆に永島慎二が山森作品に影響されていたのか?

「背中押しの男」の行為には何がしかの危険な意図があるのか?それとも、単なる親切心からの行為なのか?結局、「ぼく」の予感は外れるのだが、裏の裏があるかも?と思わせるエンディングとなっている。 

◎掲載誌の他の作品について

(1)「オッス 第8集」併録作品
『ガン太郎日記第四話ガンクレイジーの巻』山本まさはる/『あたって砕けろ!!』梅本さちお/『手紙をうばえ』松本正彦

(2)「摩天楼 第14集」併録作品
『雨だれ』 さいとう・たかを さいとう・たかをプロダクション作品(p19)/『では又来週の』幹狂二(もときょうじ)26p)/『生きる』 中橋進(27p)/『ワッショイ・ワッショイ』 浦野イサオ(12p)/ 『階段のある家』 浦野イサオ(20p)/『選ばれた犯罪』 山森ススム・ 劇画工房作品(60p)

(3)「オッス 第6集」併録作品『無敵ダンプガイ』水島新司/『ガン太郎日記第三話』山本まさはる