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4.ハクダイの蔵書より-K・元美津作品紹介その2

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K・元美津~貸本時代の作品紹介その2

前ページに引き続き、ここでも2作品ほど、K氏の作品を紹介する。あわせて5作、皆さんの参考になれば幸いである。

(4)芸術、この愛すべきもの/ハッタリトリオ・シリーズ 第2話

 K・元美津/33p/雑誌形式/影第67集/日の丸文庫/A5判/1962年(昭37)/170円/奥付に”Printed 1962.4.20″と記載あり 

・落語調の小気味良さを楽しめる作品

あらすじ三河町の高利貸し欲野深兵衛から1万円を借りている熊さんだが、返済のあては全くない。どうやら、タロやんも欲野から借金があるようで、3人揃って「金が欲しいや」とうなだれるのだったが、八っつあんが名案を思いつく。
その名案は、美術好きな欲野を、ピカソの贋作でだましてやろうというものであった。3人は、50年も絵を描いてるが1枚も売れたためしがないという横町の絵描き「岡本さん」から難解な抽象画を入手し、「ピカソ」のサインを付け加える。
インチキなピカソの作品をでっちあげ、更に、その絵画に100万円の保険までかける3人。欲野を訪ねた熊さんは、1万円の借金のカタにと、でっちあげたインチキなピカソの絵を「故郷(くに)を出る時に、困った時に美術館でも売ればいいって叔父さんがくれた絵画だ」と出まかせを言って預かってもらうことに成功。さらに、100万円の保険がかかっていることを知った欲野は、1万円の返済が無かったことにしてくれるばかりか、10万円も用立ててくれた。10万円を目の前にした3人組は「これは返済しないでいいだろう?1人2万円ずつ分けようぜ、残りの4万円は横町の絵描き岡本さんへ」と話をまとめるのだが……。

扉ページ。金欠なゴリやんが夜を彷徨うシーンで始まる。
扉ページ。金欠なゴリやんが夜を彷徨うシーンで始まる。
金が欲しいとしょぼくれる3人組(右上)。
金が欲しいとしょぼくれる3人組(右上)。
横町の絵描き、「岡本さん」。
横町の絵描き、「岡本さん」。
岡野さんの「傑作」をピカソの絵だと思い込み、嬉々として絵を飾る金貸しの欲野深兵衛。
岡野さんの「傑作」をピカソの絵だと思い込み、嬉々として絵を飾る金貸しの欲野深兵衛。
火事の知らせを聞き現場へ急ぐ3人組。
火事の知らせを聞き現場へ急ぐ3人組。
 

 解説熊さん、タロやん、八っつあん(ハッツアン)のトリオが繰り広げるコメディーシリーズ。作品扉には「ケイ・スタジオ作品」と記載。作品最終ページに作品の感想宛先として、京都市東山区の住所が記載されている。
近年では、ニセ骨董やインチキ名画等による詐欺話は、よっぽど高度なテクニックがないと成立しないと思われるが、1960年前後ならそこそこに現実味のある話で通ったのだろう。作者が落語的な世界を狙っているのは、トリオの命名からもうかがえるが、作者の意図は十分成功しているといえる。
八っつあんの「とかく、芸術愛好家なんてえのは、絵にしろ音楽にしろ、なにもわからないくせに、分かったような顔をしてるのが多いもんだ」というセリフが小気味良い。

(5)マリリンに会わせろ!!

 K・元美津/47p/雑誌形式/新書版影THE SHADOW 第3集/Hi-COMICS MYSTERY MAGAZINE 日の丸文庫・光伸書房/新書版/1967年(昭42)/220円/奥付に昭和42年1月31日と記載あり/扉に「合わせろ」と誤記、また”66.12″と魚マークのサイン、”ケイ・スタジオ・作品”と記載がある 

あらすじ「三丁目のBARナオミで酒を飲んで暴れている男がいる」という通報があり、現場へ向かう警官たち。「マリリンに会わせろ」と叫びながら飲んだくれている男は人気歌手の美山雄次だった。美山は警察に保護されて、美山と一緒に飲んでいた男も調書作成のために警察署へ行く事になる。
警察署へ着いてからも、「マリリンに会わせろ」「まるで滝のように流れてる」「マリリン!きみはどこへ行っちまったんだ」と錯乱したように叫び続ける美山。一緒に飲んでいた男は、美山のファンの奥村アキラと名乗り、自分は美山のファンで、テレビで見ているうちにどうしても会いたくなってJQスタジオの前で待ち構えて居て、美山にバーへ連れていってもらったのだと言う。
警察署の医師の診断によると、美山の症状(発作)はアルコールによるものではない可能性が高く、緊張型精神分裂の症状に一致しているという。医師の「美山が叫んでいるマリリンとは誰?」との疑問に、奥村は「マリリン・モンロー」のことだと答え、美山がマリリンのファンであることや、マリリンの映画の詳細などについて、詳しく知っているのであった。
奥村はそのまま帰宅するが、その後、警察署に「奥村昭二」という患者が精神病院から逃げ出した、と連絡が入ってくる。そして、美山の症状は幻覚剤LSDによるものではないだろうか?という可能性が出て来る。

扉ページ。寝そべったマリリンが逆さまになった構図。
扉ページ。寝そべったマリリンが逆さまになった構図。
マリリンに会わせろ、と叫ぶ歌手美山を心配そうに見守るホステス。
マリリンに会わせろ、と叫ぶ歌手美山を心配そうに見守るホステス。
マリリン・モンローについて、とうとうと語る「奥村」。K氏の作品はテキストが多いのが特徴。
マリリン・モンローについて、とうとうと語る「奥村」。K氏の作品はテキストが多いのが特徴。
友人山下のLSDを提供する奥村。山下が幻覚を見るシーンは迫力満点。
友人山下のLSDを提供する奥村。山下が幻覚を見るシーンは迫力満点。
緊迫感のあるラスト2ページ。
緊迫感のあるラスト2ページ。

解説 幻覚剤LSDを背景にした完成度の高いミステリーに仕上がっている。昭和42年というと「貸本マンガ」ではなく一般のマンガ雑誌でも「成人向けマンガ」が読めるようになってきた頃であろう。劇画風のマンガを目にする機会が増えつつあった時期なので、K氏の画風はやや古風に見られていたのではと想像するが、Kさんの画風でしか出せない世界観や雰囲気があったのも間違いはないだろう。
K氏の作品はテキスト部分が多いという特徴があるが、奥村のマリリンへの偏執的な関心がテキストで効果的に表現されている。
……ストーリーは後半から二転三転するが、ラストにかけての物語の構成力が憎いくらいに見事。

◎掲載誌の他の作品について

 (4)「影」第67集 その他収録作品
「どぶろくの源」水島新司(78p)/「逃走の果て」影第5回新人杯優秀佳作受賞作品、フクシマヤスオ(20p)/「毛」松本正彦(30p)  

(5)新書版「影THE SHADOW」 第3集 その他収録作品
「誘蛾灯」沼田清(64p)/「黒い炎」製作いわねこ・プロ&金子晴夫、岩井しげお(30p)/「霧の中」犯人は誰だ③桜井昌一(16p)/「薔薇」ショートショート作品、沼田清(文とイラスト)/「追跡」篠原とおる(42p)