タグ別アーカイブ: K・元美津プロダクション

3.ハクダイの蔵書より-K・元美津作品紹介その1

K・元美津TOPへ

K・元美津~貸本時代の作品紹介その1

ここではハクダイがチョイスしたK・元美津作品を3作品ほど紹介したい。K氏の世界に興味を持った方々の少しでも参考になれば幸いである 

(1)波の挑戦

 K・元美津/23p/雑誌形式/「影」第34集/日の丸文庫光映社/A5判/1959年(昭34)/150円 

「第3回犯人探し懸賞大募集」と銘打たれたクイズ形式の漫画

あらすじ6艇のボートが海釣りを楽しんでいた。私立探偵・針剣太郎とその友人・沖進、金貸しの欲野など6艇のボートに乗った10人が、天気の良い海上でそれぞれ腕を奮っていた。金貸しの欲野は国分寺親子(医師の父と息子の敬三)をはじめ多くの人たちに金を貸しているようで、欲野を憎んでいる人間が大勢いる気配がある。
心臓をナイフで一突きされて死んでいる欲野が発見され、私立探偵の針剣は「死んでからあまり時間がたっていない」と推定する。最終コマで作者のKが読者へ向かって事件の解決を呼びかけてエンド。

見開き扉ページ。懸賞の商品は"ナショナル蛍光灯"と記載がある。
見開き扉ページ。懸賞の商品は”ナショナル蛍光灯”と記載がある。
コマ割りが4段のため情報量が多い。
「波の挑戦」金貸し欲野の業突張りな様子がよく表われているページ。
「波の挑戦」金貸し欲野の業突張りな様子がよく表われているページ。
「波の挑戦」最終ページ。
「波の挑戦」最終ページ。

解説 K氏の作品ではおなじみのキャラクターが総出演の作品。誰が犯人か?正直、管理人ハクダイにとっては難しい謎解きで、皆目検討がつかなかった。合理的な解答を準備しているのだろうが、犯人あてや謎解き自体に面白さを見出せないと、あまり興味が持てないかもしれない。結局のところ自分には謎を解くことができなかった。あそびとしての謎解きがテーマのたわいのない娯楽作品と言い切ってしまうのは簡単だが、陰惨な雰囲気がなく、大人の鑑賞に堪えうるだけの説得力がある。元美津氏特有の絵のタッチの効果は絶大だと思う。

(2)おコワい留守番

 K・元美津/36p/雑誌形式/摩天楼第10集/兎月書房/A5判/1959年(昭34)頃/150円 

あらすじ 私立探偵「針剣太郎」が事務所へ戻ると、2人の男が待ち構えていた。2人の男(影法師の健と角(カク)は「摩天組」の組員。「針剣太郎」と名乗る男によれば、摩天組の親分「吉見達広」は拉致されたということであった。「街影会」の親分・山石栄三からの摩天組へ届けられた手紙には「吉見達広は当分あずかる。親分の命が心配なら、なわばりの事は手を引け!」と書かれていた。どうやら針剣は、摩天組と街影会の抗争に巻き込まれてしまったようだ。摩天組の親分と影法師の健が殺され、犯人は街影会の奴らと思われたが、事件の真相は全く別なところにあった。

扉。針剣太郎登場とあることから、記念すべき針剣太郎シリーズ第1作であろう。1959.12と記名あり。
小さな男の子に、自分は「私立探偵」であると自己紹介する針剣。正義の味方と言っても信用してもらえず、子ども相手に決闘までする羽目に。
小さな男の子に、自分は「私立探偵」であると自己紹介する針剣。正義の味方と言っても信用してもらえず、子ども相手に決闘までする羽目に。
長身でスマートな風貌の針剣。白のスーツ姿の主人公と黒い悪人たちの対比がシンプルでわかりやすい。
長身でスマートな風貌の針剣。白のスーツ姿の主人公と黒い悪人たちの対比がシンプルでわかりやすい。
最終ページ。黒のシルエットで歩き去る針剣。
最終ページ。黒のシルエットで歩き去る針剣。

解説真犯人が誰なのかはネタばれになるので書かないでおくが、ストーリーに破綻がなく、謎解きの面白さと探偵アクションの両方を堪能できる素晴らしい作品だと思う。敵対する2つの組織に、当時の貸本マンガ業界の内幕を反映させていると思うのは勘ぐり過ぎだろうか?(日の丸文庫→影、山田、セントラル文庫→街、立石→街影会の山石栄三 劇画工房→辰巳ヨシヒロ→ヨシミカツヒロ→吉見勝弘)

(3)殴られましょう

 K・元美津/36p/雑誌形式/影別冊第3号「笑いとスリラー特集」/日の丸文庫/A5判/1960年(昭35)/150円/奥付に「Printed in 1960.6.15」 

  あらすじ 金貸しの「黒鬼」に5.000円を借りているゴリやん。明日までに借金の返済ができない場合、黒鬼のだんなの子分・サブに酷い目に遭わされる事が目に見えている。辻強盗でもやるか?と困り果てたゴリやんであったが、偶然知り合ったジャズ評論家「磯野」の奇妙な依頼を5万円で引き受けることになる。人気トランペッターHについて、辛辣な批評をしたジャズ評論家の磯野は、Hのバックについている「ある大物」の怒りをかってしまったという。その大物の周りには大勢のゴロツキがいるという話で、その「ある大物」が、磯野に対して「明日、会いたい」と連絡してきたという。磯野の報酬5万円の依頼とは、60歳間近の自分(磯野)の身代わりとして、その「ある大物」に会ってくれ、ということだった。報酬の5万円欲しさに磯野の依頼を引き受け、ジャズ評論家磯野として約束の時間を待つゴリやん。案の定、やって来たのは、明らかに「ヤバイ2人組」で、「あんたの記事で、ウチのボスが気に入らねえものがあったんだ」と予想通りの展開。サンドバッグよろしく、野球のボールよろしく、ボコボコと殴られ、ついには失神してしまうゴリやん。 「殴られても絶対に抵抗しない」という磯野の言いつけをしっかり守ったゴリやんであったが、果たして報酬5万円を手にすることは出来るのか?コミカル調なトーンが作品全体を貫いているが、ゴリやんにとっては最悪の事態となるエンディングを迎える。

「殴られましょう!」扉ページ。劇画工房マークあり。"K.M ハードボイルド作品"と記載。扉ページに語り調子の文があるのがK作品らしい。K氏の作品は文字数が比較的多めである。
「殴られましょう!」扉ページ。劇画工房マークあり。”K.M ハードボイルド作品”と記載。扉ページに語り調子の文があるのがK作品らしい。K氏の作品は文字数が比較的多めである。
しょんぼりと夜の街を歩くゴリであったが黒金のだんなと子分・サブに出くわしてしまう。
しょんぼりと夜の街を歩くゴリであったが黒金のだんなと子分・サブに出くわしてしまう。
ジャズ評論家磯野とある商談をするゴリやん。磯野のジャズ評論は正論だが手厳しい。
ジャズ評論家磯野とある商談をするゴリやん。磯野のジャズ評論は正論だが手厳しい。
ジャズ評論家磯野に成りすましてお金持ち風なゴリやん。やって来た2人組みは、やっぱりヤバそうだった。
ジャズ評論家磯野に成りすましてお金持ち風なゴリやん。やって来た2人組みは、やっぱりヤバそうだった。
ボコボコに殴られるゴリやんだが、どことなくユーモラス。
ボコボコに殴られるゴリやんだが、どことなくユーモラス。
警官が現われ、ゴリやんに伝えたニュースは?この後、ゴリやんは更に追い討ちを掛けられることになる。
警官が現われ、ゴリやんに伝えたニュースは?この後、ゴリやんは更に追い討ちを掛けられることになる。

解説「Hなる人気トランペッターについての記事なんだ」「Hのプレイからは、ひとかけらの個性も聞き取る事はできない。しかし、妙な事に、彼は人気がある。これはファンの責任だ。我々はもっと広い目でジャズを見つめるべきだ」……磯野がジャズ雑誌に書いた批評の内容から、K氏のジャズ通ぶりがうかがえる。 陰惨さ、悲壮さとは縁遠い、ユーモラスで味わい深いテイストに仕上がっているが、絵空事とは思えず、K作品の特徴が良く出ていると思う。
サンドバッグ、野球のノック、テニスボール、ラグビーボール、杭打ちされる杭、そしてバスケットボール。これら全てに見立てられて、ボコボコに殴られたり蹴られたりするゴリやんがユーモラス。

◎掲載誌の他の作品について

(1)「影」第34集 その他収録作品
「顔のない少女・前編」鈴木洸史(24p)/「脅迫者」影丸譲也(76p)59.7.5-J・Kプロのクレジットが扉にある/「スリラーショー」桜井昌一(24p)「暗殺者」山口ヨシヒロ(24p)/「鏡は怒る」田中ヒロオ(27p)/「ピストルの歴史(読み物)」さいうんしょうじ(2p)/「俺は殺る」水島新司(36p)/「治虫夜話第二夜(絵入りショートショート)」手塚治虫(4p)/「誌上リサイタル」山森ススム(25p) ※他に劇画工房同人仲間の紹介ページあり(1p) キング・オブ・スリラー山森ススム君へ え=さいとう・たかを、文=K・元美津

(2)「摩天楼」第10集 その他収録作品
「悪夢の世界」石川フミヤス(31p)/「鬼」桜井昌一(32p)/「雨」小倉一夫(16p、A6横)/「死」北尾よしひろ(16p、A6横)/「当選者」山森ススム(43p) ①劇画工房同人仲間の紹介ページ(2p) 劇画家のある日①山森ススム先生の巻(写真5枚) ②劇画家をはだかにする(4p) K・元美津先生の巻 仲間3人がK氏について語る座談会 ③私のスタアその3回 K・元美津プロダクション K作品の主要キャラクターの紹介

(3)「影」別冊第3号「笑いとスリラー特集」 その他収録作品
「日雇い殺し屋」佐藤まさあき(24p)/「殴られましょう」K・元美津(36p)/「電信棒」田中ヒロオ(37p)/「ショック」水島新司(22p)/「銃弾に咲く花」高輝雄(44p)/「ある小さな物語」山本まさはる(24p)/「恐木」山森ススム(43p)