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シリーズ・松本正彦2016~その3 『人形紳士』1955年(昭和30)を読む

「人形紳士」松本正彦 を読む。

電子書籍サイトの ebookjapan ←クリック で松本正彦作品を読むことが可能です。松本正彦で検索しますと、24件ほどヒットします ⇒ クリック

 この『人形紳士』冒頭の14ページを立ち読みできるので、是非立ち読みだけでもして頂きたいです。(勿論課金して全て読んでも納得の作品ですが)。

既に旧聞に属することでありますが、昨年2016年、「ハクダイのカカク」管理人・ハクダイは、故・松本正彦さんの御長男である松本知彦さんに2度ほど御会いする機会に恵まれました。2016年には「松本正彦・知彦・親子展」、「松本正彦・切り絵展」が開催され、「アーテイスト・松本正彦」の業績を振り返るにふさわしい年だったと思います。不定期ではありますが、松本正彦関連の話題をシリーズとして綴っていきたいと思います(2017・6・13)。

 あらすじと見どころなどをハクダイなりにまとめてみましたので参考にして頂ければ幸いです。ebookjapanの該当作のあらすじはこちら ⇒ クリック

 また、小学館クリエイティブより刊行の松本正彦「駒画」作品集・隣室の男収録の作品リストにも、マンガコレクター上村誘さんによる数百字程度の解説が収められています。尚、このページのアイキャッチ画像は、この作品集・隣室の男の表紙です。

あらすじ 映画館から出てきた少年・三平と、その、おじ泰三は、客寄せのために飾られたショーウインドウの中にある電気人形の前を通りかかる。本物の電気人形なのか?人間が扮装しているのか?判断出来ない二人の目の前で、ショーウインドウの中の電気人形が銃声と共に倒れる。そして、狙撃者と思われる男の姿が現われる。狙撃者らしき男を追う三平と鍛冶川であったが、見失ってしまう。

 三平は、詰襟の学生服らしき服を着ており、高校生くらいの年齢と思われる。おじの鍛冶川は私立探偵という設定かと思われる。血縁関係のある叔父・伯父なのか、知人の大人への敬称としての「おじ」なのかは判断できず。

 狙撃者らしき男が落としていったと思われる名刺には「曽我五郎」の名が。三平の友人の少女・チヨコの父「曽我十郎」氏の弟が「曽我五郎」であり、曽我五郎氏は「電子ロボットを製作中」として話題の人物であった。

 曽我五郎氏が、顔が薬品で誰か判別できない状態で、死んでいるのが発見される。チヨコが語るところによれば、父・曽我十郎は行方不明、父・十郎は、弟五郎と仲が悪かった。そして、不仲の原因は、十郎が弟・五郎の研究に反対していたせいらしい。

 曽我五郎氏は、人間を超えた存在としての「ロボット」を製作しようとしていたようだ。そして、「人形紳士」を名乗る謎の人物(ロボットないしは怪人か)による破壊事件、美術品の窃盗事件などが立て続けに起こる。不敵にも美術品の盗難予告をしてくるという大胆な人形紳士。

 名探偵・鍛冶川との知恵比べの末、ついに人形紳士の正体が明らかになる。行方不明の曽我十郎氏の安否~生死の行方はいかに? そして、十郎氏こそが人形紳士なのか?それとも人形紳士は、やはりロボットなのだろうか?

興味深い点など

・結末が、ハッピーエンドとは言い難いモノで、ある種の無常観を感じさせる。
・スリラーかミステリーか?、これは断然後者であると思う。漫画を読んでいるいう感覚もあるのだが、活字を追っているような感覚も多分に感じさせる。

・人物の等身サイズは5~6投身と言ってよいと思う。下半身を極端に太く描くデフォルメは、松本正彦独自のモノと言えるかもしれない。
・江戸川乱歩作品の影響か?怪人二十面相作品に似たようなトリックがあったように思います。アドバルーンを使った逃走トリック、窃盗ターゲットの美術品のすり替えトリック、変装トリックなどです。

・死体発見のシーンで「博士の死体は、あまりにひどいのでとても絵に描けません」とテキスト情報のみのコマがあります。ユーモアなのか?、素直に暴力シーンを避けたいのか?著者の真意は分かりませんが、作品世界へのリアリティー付加という点では効果的な演出になっていると思います。また、前述の上村誘さんの解説でも、この場面を取り上げております。

・窃盗の予告時刻が来る時間経過のカッチカッチの描写が、かなりのコマ数を使用していて、ページ数が多く使える単行本ならでは、と強く感じる。

・21、22p。曽我五郎が作ろうと構想している「ロボット」の性質が興味深い。著者は、手塚治虫作品をはじめとして、SF作品にも大きな関心を寄せていたように想像します。

・ユーモア、ギャグのシーンが皆無。まあ、作者がユーモアを意図している部分もあるのかもしれませんが。

・作品冒頭・トビラ部分に「1955.11」と製作年月らしき署名あり。

・発見された死体の顔が酷い状態で身元が特定出来ない、という点がストーリー展開上、大きなポイントですが、身元認証(確認)の技術があまり進歩していない時代ならではのものでしょう。現行では通用しない作劇上の工夫でしょう。

2017.6.17記す。