ハクダイの蔵書より-石川フミヤス作品紹介(つづき)
☆作品紹介4/断末魔
30p/雑誌形式とも競作単行本とも解釈できる/GUNSア・ラ・カルト第1号・佐藤まさあき・石川フミヤス傑作集/すずらん出版社/A5判/1960年(昭35)/150円
あらすじ「スピードの政」に「報酬の残金は成功した後に渡す」と言いつつ「ある仕事」を依頼する社長。その社長のところへ姿を現わした「鉄」は、「スピードの政」が「殺人」を請け負った事を感じ取っているようだ。
「スピードの政」は残忍極まりない男であり、拳銃(ハジキ)の名手であることは広く知られている事である。 はたして、「スピードの政」は依頼どおりに「大串田」を拳銃で撃ち殺す。
しかし、「スピードの政」は、殺人を犯した事への恐怖の念を追い払うためにアルコールを一気飲みするような、意外にも臆病な男でもあった。 スピードの政がアルコールを飲んでいるところに現れた鉄は、スピードの政の拳銃を打ち落とし、一緒に来るように命令する。
鉄の隙を付いて逃げ出した「スピードの政」は、仕事を依頼した社長の所に行き、約束の半金を受け取るが、社長が自分を裏切って「鉄」を刺客として差し向けたと思い込んで社長をも銃殺するのであった。
社長を殺した現場を「政」が離れようとした時、鉄が現れて、政に対して「手を上げろ」と強く迫り、政の拳銃を奪う。 鉄曰く「よくも簡単にそれだけ、人が殺せるな」。そして鉄は自分が私立探偵である事を明かすのであった。
警察への同行を促す鉄に対して、隠し持っていたもう一丁の拳銃で、鉄を狙撃する政であったが、間一髪、鉄の放った銃弾が政を捉えるのであった。 「腹が苦しい」「死ぬのはいやだ」「助けてくれ、医者を呼んでくれ」と、まさに「断末魔の叫び」を上げつつ絶命する政。
正当防衛で殺したとはいえ、後味の悪い事だと、政の死体を目の前にして、静かにつぶやく鉄であった。
スピードの政と対決するのは私立探偵「鉄」。鉄によって腹に銃弾を受けた政は、助けてくれ、と叫ぶが、その往生際の悪さも見どころだ。ラストは石川氏らしい虚無感を漂わせている。
短尺ながら、 残忍極まりないと呼ばれている「スピードの政」の臆病な一面と死に際の惨めさが生々しく伝わってくるハードボイルドな一品である。
☆作品紹介5/嵐の青春 青春無頼帖シリーズ⑤
142p/単行本(単独作)/東京トップ社/A判版/1961年(昭36)頃/160円
あらすじ酒飲みの父と妹と3人暮らしの羽鳥謙三は中学校の野球部でピッチャーとして活躍している。酒飲みの父は、「つまらねえボール投げなんかやっていねえで」と、謙三が野球をやっているのが面白くなく、野球を止めろとまで言う。
このままでは高校進学を諦めて進学せざるを得ない状況である謙三だが、中学校の野球大会で大活躍し、野球の名門高校へ野球特待生的な扱いで進学する。高校野球の世界でも頭角を現し、高校一年生にして既にプロ野球スカウトの目に留まるまでになる。
中学野球からの友人である松葉弘や美少女の中原キミ子とは疎遠になった一方で、高校野球部の監督の娘と親しくなるなど、いささか有頂天になっていく謙三。しかし、謙三は、街の不良たちと喧嘩し、利き腕の指5本全部を骨折させられてしまうという悲劇に見舞われる。
プロ野球のスカウトたちは去り、高校も特待生扱いを止める、と連絡してくる。失意の底にある謙三に対して、松葉弘と中原キミ子はこれまでと変わらない態度で接するのであった。
野球の試合のシーン は意図的にタッチを絵物語、あるいは挿絵風に変えているのだろう。 野球の試合のシーンは左のページのコマ割りが冴える。
最終ページとは、主人公の妹が小学生ながら妙な色気を振りまき、ドキッとする主人公の友人松葉弘。
野球のシーンの完成度が高い。当時の「野球マンガ」の代表といえば関谷ひさしの「ジャジャ馬くん」だったかもしれない。ちばてつやの「ちかいの魔球」も臨場感溢れる描写で楽しませてくれるが、オトナの世界という感じはしないので、このリアルさは、貸本マンガならではのものといえよう。
美少女の中原キミ子の母が囲われの身(愛人とその娘)であることが作者の「陰の声」として説明されるあたりは、少年向け雑誌では考えられない事かと思います。 羽鳥謙三の妹(小学校低学年と推定)がラストシーンで羽鳥の親友の松葉に見せる表情の子どもらしくない色気も貸本マンガならではだ。
併録作品なし。巻末に「青春無頼帖シリーズ⑥ 花咲く青春」が次号予告されている。
☆作品紹介6/ボーイハントに御用心
石川フミヤス/38p/雑誌形式/ゴリラマガジンNo.35(さいとう・たかを劇画マガジン)/さいとう・プロダクション/A5判/1965年(昭40)/ 200円
あらすじ男が階段を降りている後ろ姿を捉えた一枚の写真を物語の起点にして、3人の作家が競作するという趣向のオムニバス。石川と、さいとう・ゆずる、武本サブローの3人。
正月休みに入ろうとしている青年「渡辺」は、「アコ」と「真理」という2人連れの女性2人をナンパすることに成功する。 「仕事からの開放感を車で味わってみませんか?」と誘う渡辺に「なかなか誘惑がお上手ですわね」と応じる真理。 華麗なドライビングテクニックを披露する渡辺と2人の女性はドライブを楽しむのであったが、渡辺は「財布を忘れてしまった」とコーヒー代とガソリン代を彼女たちに借りる始末。
自分たちの乗っている車が盗難車ではないのか?という疑念が湧いて来た女性2人は気が気でなくなってきて、隙を見て逃げ出そうとするのだが……。
実際より正面を向いたような人物の顔の描き方は石川氏の特徴といえるかもしれない。
女性がスカーフで頭全体をすっぽり覆うスタイルは昭和40年代の流行のファッションだったのだろう。
スマートで軽快な自動車走行シーンを経て、さわやかにラストを迎える。 ハードボイルドな雰囲気はほとんど感じられない。 サスペンスの要素も押さえつつ、ガールハントを扱ったおしゃれな青春物という印象である。作者の手慣れた感が充分伝わってきて、安心して読める一品である。
◎掲載誌の他の作品について
・「GUNSア・ラ・カルト第1号・佐藤まさあき・石川フミヤス傑作集」併録作品
「さいてい野郎」佐藤まさあき(106p)/銃に関する特集記事として約30p/大藪春彦と佐藤まさあきの対談「2人はGUNマニヤ)~(6p)
・「ゴリラマガジンNo.35」併録作品
「階段」さいとう・ゆずる(40p)/武本サブロー(48p)/「ゴリマガ横丁」山田節子(6p ※「ゴリマガ横丁」は毎回担当が変わるようで、この号では山田節子が担当のようだ)/オムニバスのイントロダクション(マンガ形式)は制作者のクレジットがないが、石川フミヤスが手がけているようである(4p)