管理人ハクダイの蔵書より/山森ススム作品の紹介その2
☆作品紹介7/山彦(やまびこ)に聞け
山森ススム/128p/単行本形式/セントラル文庫/B6判/1958年(昭33)頃/130円/表紙のタイトルの直ぐ下には「怪奇スリラー」と記載
あらすじ旅館に滞在しながら猟を楽しむ3人の男たち、北大路、鬼川、梅田。梅田が熊と間違えて北大路を猟銃で撃ってしまい、北大路は腕に怪我をしてしまう。手当てのためにくんで来た水に砂金が含まれている事に梅田が気付き、3人は砂金が大量に存在する金鉱を発見する。
砂金の鉱脈の事は3人だけの秘密としようと約束を交わし、砂金掘りに精を出す3人であったが、誰かが砂金を独り占めにするのではないだろうか?とお互いを疑い始め、3人の仲はギクシャクしたものになっていく。なにしろ、3人とも猟銃を持っている。熊と間違えて撃ってしまった、と言い分けすれば、それが通りそうな状況なのである。
3人の男たちと同じ旅館に泊まり合わせた「仁・ひとし」と「千太・せんた」の2人も猟を楽しんでいたが、3人の男たちの挙動に不審を抱くのだった。
3人の男たちのうち、初めに梅田が山中で死体となって発見され、次には鬼川も行方不明となってしまう。仁と千太は、北大路が風貌からしても挙動からしても怪しいと思い込み、彼の行動を監視するのだったが……。
梅田の死因は事故なのか他殺なのか?そして行方不明の鬼川はどこに?エンディングで、疑心暗鬼が生んだ妄想に3人が振り回されていただけだった事が明らかになる。
解説思いがけない「獲物」を手にした時に、誰かを出し抜いてやろう、自分ひとりだけイイ思いをしてやろう、という疚しい人間の心理をあざやかに描き出した作品。実際に有り得そうなストーリーで、当時のマンガにあっては、際立ったリアルさだと思う。
袋詰めした砂金を運ぶ場面が登場するが、本物の砂金はもっと重いでしょう?と余計な突っ込みを入れたくなりましたが、このあたりは御愛嬌でしょう。
☆作品紹介8/恐木
山森ススム/43p/雑誌形式/影別冊第3号「笑いとスリラー特集」/日の丸文庫/A5判/1960年(昭35)/150円/奥付に「Printed in 1960.6.15」と記載あり
あらすじ人里離れた山中の洋館で嵐の夜を過ごす3人の男たち。強風で窓ガラスが割れて、腕をガラスで切ってしまうなど、不吉な兆しが強まる中、男たちは、道に迷った老婆が洋館の前で倒れているのを発見する。
老婆は、「自分の命は今日限りである」と予言し、男たちの怪我の事や、戦争で受けた負傷について神通力のように見事に言い当てるのであった。自分は過去の事も未来の事も、よく分かると言い放つ。そして洋館の前に立つ、10年ほど前に枯れてしまった木を見て、ある予言をする。「自分の命は今日限り」、「あの木は恐ろしい木じゃ、2人の人命を奪う、しかも明朝5時までに」、と。
そして日付が変わる午前0時、予言通り、老婆は息を引き取るのだった。洋館前に立つ枯れ木が洋館に倒れてくるのではないか?枯れ木に落雷があるのではないだろうか?3人は徐々に平常心を失っていくのであった。
解説朝の5時、3人の男たちの運命は……?枯れ木と2人の人間の死とは……? 映像で表現するなら、それなにり雰囲気が出そうな話かもしれないが、老婆の正体に関しての情報がごくわずかしかないためス、トーリー自体の奥行きに少し物足りなさを感じる。
深夜の嵐の中の洋館の作画は、もちろん山森氏の手描きだろう。太い線、黒を基調としたトーン、この雰囲気は山森ススムにしか出せない世界である。
☆作品紹介9/姿なき犯罪(作:山内清美、画:山森ススム)
山森ススム/30p/雑誌形式/影第35集/日の丸文庫/A5判/1959年(昭34)頃/150円
あらすじ銀行強盗により、2千万円を手に入れて逃走を図る4人組。山荘で事態が収まるのを待ち、金を山分けしようとする4人。リーダー格の男(キャラは北大路)は、大金に目がくらんで、つまらねえ考えを起こすなよ、と他の3人に釘を刺す。
しかし、見張りに立った男が殺害されているのが見つかる。凶器は刃物。そして、2人目の死人が。残った2人(リーダー格の男と、もう1人)は、お互い相手を裏切り者(仲間殺し)と思い込む。果たして、2人の死の真相は?2千万円は誰の手に?
解説「第1回ストーリー募集優秀作品」と扉に記載あり。また、扉には「脚色:山森ススム」。公募したストーリーを劇画化する、というコンクールを実施していたようだ。残念ながら募集もしくは入選発表についての記事を確認出来ていないが、なかなか興味深い取り組みなので、機会があれば、この辺りは詳しく調べたいところである。
ストーリーが先にあっての劇画制作は山森氏にとって仕事がしやすかったのだろうか?いずれにせよ、サスペンス、ミステリーとしての完成度の高い作品に仕上がっている。
缶ビールを飲むシーンでは、プルタブ式ではなくナイフで缶に直に穴を開ける様子が描かれている。そういえば、自分が子どもの頃の昭和40年代、缶に穴を開ける専用の工具があったのを思い出した。数mmの穴を対角に2個ずつ、計4個開けたような記憶があるのだが、記憶が曖昧です。
◎掲載誌の他の作品について
(1)「影 別冊第3号『笑いとスリラー特集』」併録作品
『日雇い殺し屋』佐藤まさあき(24p)/『殴られましょう』K・元美津(36p)/『電信棒』田中ヒロオ(37p)/『ショック』水島新司(22p)/『銃弾に咲く花』高輝雄(44p)/『ある小さな物語』山本まさはる(24p)/『恐木』山森ススム(43p)
(2)「影 第35集」 併録作品
『踊るゆうれい』辰巳ヨシヒロ/『長編クイズ部屋・ロマンチックじゃない話』K・元美津/『殺す奴』影丸譲也/『ぎょっとする電話』佐藤まさあき/『俺には明日がある』水島新司/『顔のない少女』鈴木洸史/『激突』桜井昌一/『特別読物・ピストルの歴史』さいうんしょうじ