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4.ハクダイの蔵書より-石川フミヤス作品紹介その1

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管理人ハクダイの蔵書より-石川フミヤス作品紹介

☆作品紹介1/悪夢の世界

 石川フミヤス30p/雑誌形式/摩天楼第10集/兎月書房/A5判/1959年(昭34)頃/150円 

あらすじ「ぼくの一生涯を通じてこんな恐ろしい出来事は二度とないでしょう ちょっとした事からなんの関係もないぼくにまでも、災難がふりかかってきたのです……」の文で物語は始まる。
高校生の「ぼく」は、師走のある晩、おとなしそうな青年が、いかにも反社会的な連中にケンカを売られている場面に出くわす。その大人しそうな青年の顔に見覚えがあった「ぼく」は、恐ろしさも忘れて引きつけられるように、拉致される青年のあとをつけていった。 青年「健次」は「ぼく」の家に2度ほど行商に来ていたので顔を見知っていたのだった。そして、健次は組織の裏切り者として追われている身であったのだ。
組織のボスは、「ぼく」と健次の間柄を疑い、組織の秘密を知った以上、2人とも生かしておけないと葬り去ろうとする。 健次の必死の反逆によって命からがら逃げ出す事に成功した「ぼく」であったが、組織の連中は追ってくる…。果たして「ぼく」は助かるのか? 「ぼく」が組織の連中に車で拉致される場面を、偶然見ていた男が警察に通報したようで、駆けつけた警官隊によって「ぼく」は辛うじて助けられ、警官隊が組織の連中を包囲し、物語は終わりを迎える。

「悪夢の世界」見開き扉ページ。この当時は、学生服に学生帽という姿が定番の服装スタイルだったのだろう。
「悪夢の世界」見開き扉ページ。この当時は、学生服に学生帽という姿が定番の服装スタイルだったのだろう。
セリフなし、コマ運びだけで読ませてくれる。トーンの色使いは抑え気味。
セリフなし、コマ運びだけで読ませてくれる。トーンの色使いは抑え気味。
最終ページ。危機一髪、救助される「ぼく」。"えんど"と平がな表記で締め。右ページの墜落シーンはテンポ良く魅せる。
最終ページ。危機一髪、救助される「ぼく」。”えんど”と平がな表記で締め。右ページの墜落シーンはテンポ良く魅せる。
解説結局、「主人公・ぼく」は、偶然、拉致の現場を見ていた男の機転(活躍)で事なきを得るのだが、その男の素性は全く明かされておらず、少しもどかしい気がする(不自然さが残る?)。
作者の狙いは、日常に潜む恐怖をいかに表現するか?にあったように想像する。 ドキュメンタリー的な側面もあり、なかなかに読ませる作品。さいとう・たかをの画風に極めて近い絵柄といえるだろう。作品扉に「劇画工房のマーク」あり。

☆作品紹介2/熱球の陰に(前編)

 石川フミヤス/20p/雑誌形式/熱血男児第14集/セントラル文庫/A5版/1959年(S34)/150円 

あらすじ上原高校に転校、野球部に入部した仲原達夫。彼は能力の高い三塁手であったが、野球部のキャプテン・エースである植西の横暴さに耐えられず、暴力沙汰を起こしてしまう。 植西の父はPTA会長であり、町の有力者であり、学校の先生も植西に対して強く出られない状況であった。 達夫の父の会社は植西の父の経営する植西電気の下請けをやっており、その事から、ツケアガる一方の達夫と耐えるしかない達夫。
植西は、プロのスカウトからの注目を集める技巧派の下手投げピッチャーであるが、キャプテンとしての資質には欠け、達夫の事が気に入らないワガママな性格であった。そして強豪H高校との試合を迎えた達夫たちG高校。試合は、1対0でG高がリードのまま最終回を迎えるのだが…… 。

「熱球の陰に」扉ページ。
「熱球の陰に」扉ページ。
達夫の入部の場面。転校して来て早々に野球部を入ろうとする仲原達夫。横暴な植西のノックを受ける。
達夫の入部の場面。転校して来て早々に野球部を入ろうとする仲原達夫。横暴な植西のノックを受ける。
練習風景。迫力ある場面が続く。
練習風景。迫力ある場面が続く。
解説前編しか読めていないのが残念である。近年の感覚だとむしろスカスカに感じてしまうくらいのシンプルな描き込みながらも臨場感溢れる作品である。しかしながら、当時は日常的にも創作物の中でも「殴る」シーンはよくある光景だったのだろうか?。
父親が地元の有力者で、その子息が横暴な振る舞いに及ぶ……。1975年(昭50)くらいまでの少年マンガには、よく見かける設定である。近年の感覚では不自然な印象が強いが、当時はこの種の横暴さは、社会的にある程度容認されていたのかもしれない。有力者なんだから何が悪い、的なノリを周囲も納得せざるを得なかったのではなかろうか。作品扉に「劇画工房」のマークあり。
128pには「チョット失礼」と題した1pの石川フミヤス氏の仕事場風景のイラスト付きコラムが掲載されている。

絵と文は石川フミヤス本人による。生年月日と生い立ち、好きなもの、趣味、代表作等の自己紹介。
絵と文は石川フミヤス本人による。生年月日と生い立ち、好きなもの、趣味、代表作等の自己紹介。

☆作品紹介3/黒い誘惑

 石川フミヤス/80p/単行本(単独作)/影別冊サービス付録(本誌については情報無し)/B6版/1960年(S33)/160円(本体込みと思われる) 

あらすじ主人公・足川徹とその友人・市ノ谷の友情を軸にクラスでの覇権争い、貧困の問題などが丁寧に描かれた作品。
足川徹の父はタクシー運転手をしており、ある風雨の夜、酔っ払いを轢いてしまうところから物語は始まる。足川の父は、轢き逃げの事実を誰にも言わず、事故をウヤムヤにしてしまおうとする。 はたして、轢き逃げされた酔っ払いは足川の親しい友人市ノ谷の父であった。
幸いにも命には別状は無かったものの、一家の収入が全く無くなってしまったので、市ノ谷は、妹と弟を養うために、父の代わりにに働くことになる。 中学校には通わずに、バーで働くことになった市ノ谷だったが、市ノ谷が居なくなったクラスの勢力図が大きく変わり始める。喧嘩の強い市ノ谷は、クラス内では大きな影響力を持っていたのだった。
市ノ谷のいないクラスを仕切ろうと喧嘩を仕掛けてくる狂田四郎とその一味との「抗争」が始まる。そして、市ノ谷が密輸事件に加担していたとして逮捕されるという事件が起こる……。
ストーリーは目まぐるしく展開するが、市ノ谷は、中学校へ復学し、ハッピーエンドで物語は終わりを迎える。 足川徹の父が市ノ谷の父を轢いた一件も、足川の父と市ノ谷の二人だけの間で「和解」するという形で決着がつく。

本体表紙。2色刷り。貸本仕様の糸綴じ補修あり。
本体表紙。2色刷り。貸本仕様の糸綴じ補修あり。
扉ページ。クモの巣と、糸に絡まった昆虫の背景。
扉ページ。クモの巣と、糸に絡まった昆虫の背景。
作品冒頭。日の丸文庫「影」編集部の影響はどの程度だったのだろう?
作品冒頭。日の丸文庫「影」編集部の影響はどの程度だったのだろう?
同級生の美形女子「有馬さん」のキャラクターが存在感を放っている。
同級生の美形女子「有馬さん」のキャラクターが存在感を放っている。
夜の歓楽街の描写など。
夜の歓楽街の描写など。
中学生VS高校生の乱闘シーン。
中学生VS高校生の乱闘シーン。
解説「別冊影」の別冊付録である。本体の「別冊影」の内容は不明。扉絵は、クモの糸とそれに絡め取られた昆虫を描いたと思われる背景と手描き題字。劇画工房のマークあり。企画提供:日の丸文庫「影」編集部、作画:石川フミヤス、製作:劇画工房と記載されている。影編集部の実態と作品への影響力が気になる所である。個人的見解だが、編集部は作品制作にほとんど関与していないのではないだろうか。
作品の発表時期を考えると、少年向けマンガ雑誌では、ここまでリアリティの感じられる女子中学生描写はあまりなかったと想像する。時代の感覚をキャッチする鋭敏さと表現の自由度は当時の貸本マンガが持ちえた最大の特色の一つであろう。
中学校へ行かずにバーで働く市ノ谷へ会いに行く足川。 そして、シンプルながら迫力のある「中学生VS高校生の乱闘シーン」。 登場する中学生たちが、すでに大人びた雰囲気をもっている。
足川は、生活費が国から援助される事になり、バーで働く必要がなくなって中学校へ復帰した。中学校に通うべき年齢でバーで働く、というのが今の時代からすると不自然な設定だが、当時は割りとよくある話だったのであろうか?
足川の母は、市ノ谷を「くせの悪そうな子」と思っており、「本当に家の貧しい子は、必ずといっていい程、不良になるわね」とまで言ってのける。その後、「よく考え直したら、そんな悪い様子はなさそう」と考えを改めるのだが……。
個人的には「沼田清に似ているな」と思わせる絵がある(上で引用したページの夜の歓楽街のシーン)。また、さいとう・たかを風のタッチは、この作品では、さほど色濃くはない。併録作品なし。

◎掲載誌の他の作品について

・「摩天楼第10集」併録作品
「鬼」桜井昌一(32p)/「雨」小倉一夫(16p、A6横)/「おコワイ留守番」K・元美津/「死」北尾よしひろ(16p、A6横)/「当選者」山森ススム(43p)
・「摩天楼第10集」その他の読み物、記事
(1)劇画工房同人仲間の紹介ページ(2p)
劇画家のある日①山森ススム先生の巻 写真が5枚あり
(2)劇画家をはだかにする(4p) K・元美津先生の巻 仲間3人がK氏について語るという座談会形式
(3)私のスタア その3回 K・元美津プロダクション K作品の主要キャラクターの紹介。

・「熱血男児第14集」併録作品
「静かなる男」松本正彦(p31)/「嵐の一本松」阿部清一(24P)/「涙と友情」岡内俊夫(A6,16p)/「我等の仲間」桑畑たかみつ(24p)/「刑事とその息子」大塚三平(23p)/「俺にかわって生きてくれ」よりた・やすお(A6,16p)/「2は1にならづ」久呂田まさみ(35p)