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2.ハクダイの蔵書より-山森ススム作品紹介その1

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管理人ハクダイの蔵書より/山森ススム作品紹介その1

☆作品紹介1/金龍街の狼

 山森ススム/オリジナル/単行本/八興・日の丸文庫/B6判/1955年(昭30)/最終ページに「1955.4」とサインあり 

あらすじ怪盗黒トカゲ団が、ある大都会を舞台に数多くの事件を引き起こしていた。警官二人が黒トカゲ団に射殺され、人々は恐怖にさらされる。金持ちや銀行が襲われ、事件の後には不気味な黒トカゲの名刺が残されていた。
少年探偵「勝山勇三」とその友人の「セン太」くんは、黒トカゲ団の行方を追うが、黒トカゲ団は簡単に尻尾をつかませるような連中ではなかった。
黒トカゲ団の団長に200万円の賞金がかかる。水本克一氏とその弟克二氏が殺されて宝石を奪われるという事件が発生し、克一氏の令嬢「洋子」がさらわれる。少年探偵「勝山勇三」は黒トカゲ団を捕らえる事ができるのだろうか?そして、令嬢・洋子を救い出せるか?
黒トカゲ団と勝山勇三の戦いの行方は、意外な真犯人によって意外な結末を迎えるのであった。

オリンピック文庫の合本。厚みのある束(つか)でお得感がある。
オリンピック文庫の合本。厚みのある束(つか)でお得感がある。
扉ページ。ピストルを構える少年探偵「勝山勇三」。
扉ページ。ピストルを構える少年探偵「勝山勇三」。
セン太くんのズッコケぶりが微笑ましい。
セン太くんのズッコケぶりが微笑ましい。
拷問シーンは山森作品の中ては珍しい。
拷問シーンは山森作品の中ては珍しい。

解説山森ススムのデビュー作。登場人物「水本克一」の名は、友人水本克世(K・元美津)からの拝借であると思われる。
悪役・黒トカゲ団の設定にマンガ的な極端な誇張が少ないところに、サスペンス・ミステリー作品を後年多く手がける山森ススムらしさを感じる。
ハクダイが所有するのは「合本」タイプで、オリンピック文庫(発売所は八興)として『21の指紋』(辰巳ヨシヒロ/p128)を併載している。山森作品は後半部分。オリジナル版が欲しいのはもちろんだが、これはこれである意味お得感がある。単行本のタイトルは「暗闇坂の首男」。

☆作品紹介2/当選者

 山森ススム/42p/雑誌形式/摩天楼第10集/兎月書房/A5判/150円/1960年(昭35) 

あらすじ真実一郎探偵事務所に、20年前に捨ててしまった我が子を探して欲しいという依頼人がやってくる。依頼人の男は金が無いがために可愛い我が子を捨ててしまった事を後悔していると語り、7月11日に捨てた、という事だけは覚えていると言う。
真実一郎は、男の依頼を引き受けることにするのだが、すぐさま、北大路竜介と名乗る男が、依頼を持ち込んでくる。奇妙な事に北大路の依頼も、さきほどの依頼同様、20年前に捨ててしまった我が子を探して欲しいという依頼で、捨てた日まで7月11日と同じであった。
奇妙な2件の依頼ではあったが、真実一郎は孤児院等への聞き込みを行い、依頼人2人の子供と推測される青年「川石康文」を見つけ出す事に成功する。その青年は、4歳の時の大やけどにより顔に大きなやけど痕があるのであった。
一方、真実一郎の知人である西村刑事は、障害者の子どもが立て続けに殺される、という事件の捜査をしていた。
障害者を襲う謎の殺人事件の真相と犯人は?そして、川石康文は、2人の依頼人のどちらかの実の子なのだろうか?……物語は悲しい結末を迎える。

大胆なデザインが印象的な扉ページ。左上に劇画工房のマーク。
大胆なデザインが印象的な扉ページ。左上に劇画工房のマーク。
 
物語冒頭。あごのホクロが特徴の「真実一郎」。
物語冒頭。あごのホクロが特徴の「真実一郎」。
山森作品では女性の登場回数が少ない傾向があるため、この女性の造形は個人的に興味深い。
山森作品では女性の登場回数が少ない傾向があるため、この女性の造形は個人的に興味深い。
物語終盤。車の描写に注目。
物語終盤。車の描写に注目。
 

解説「劇画工房」同人時代の作品である。社会派ドラマ的な側面が強い佳作品だと思うが、いくぶん話を端折り過ぎているきらいがある。個人的には、長編でじっくり描いて欲しかった。
真実一郎事務所の女性スタッフの存在感によって、山森作品としては華やかな雰囲気を漂わせる作品になっていると思う。描かれた女性のキャラクターは桜井昌一作品に登場する女性のキャラクターに質感としては近いだろうか。「川石康文」という名前は「石川フミヤス」からの借用であることは言うまでもない。

☆作品紹介3/おれは死人

 山森ススム/単行本形式/約130p/第一プロダクション/A5判/1964年(昭39) 

あらすじ数千万の金が自分のものになるという幸運を前に危険を冒す男。大金を得るためには死体が必要だ、それも死体であればなんでも良いというわけではない、ある要件を満たす死体でなければならない。そして「ぼく」は命を狙われ、恐怖のどん底へ突き落とされる。しかし、どうすれば良いのだ?助けてくれ兄さん、警察もあてにできない……。

解説   マンガ家(劇画家)山森ススムの最も後期の時期に描かれた作品の一つ。本名の「山森博之」名義となっている。サスペンス描写が冴え渡る山森作品最後期の秀作ミステリーだと思う。作画に若干の変化があり、特に人物の目の描き方が大きく変わっていることに注目したい。

表紙も山森さんが手がけているようである。この頃になると、内容と無関係の作家が貸本マンガ表紙を描くことは少なくなっている。
表紙も山森さんが手がけているようである。この頃になると、内容と無関係の作家が貸本マンガ表紙を描くことは少なくなっている。
 
見開きの扉ページ。山森作品の絵に変化がうかがえる。
見開きの扉ページ。山森作品の絵に変化がうかがえる。
イントロダクション。キャラクターの顔をやや大きめに描くデフォルメが特徴的。
イントロダクション。キャラクターの顔をやや大きめに描くデフォルメが特徴的。
物語冒頭、暗闇の中、怪しい男に付きまとわれる男。
物語冒頭、暗闇の中、怪しい男に付きまとわれる男。
 

「おれは死人」は、山森博之ショッキングシリーズ①として辰巳ヨシヒロ氏経営の「第一プロダクション」より刊行されており、この「ショッキングシリーズ」は少なくともNo.4までは刊行されたようだ。

No.4「奇妙な奴」の単行本表紙。この表紙は山森氏意外の方が描いている可能性がある。「みやわき心太郎」氏だろうか?
No.4「奇妙な奴」の単行本表紙。この表紙は山森氏以外の方が描いている可能性がある。「みやわき心太郎」氏だろうか?
 

☆作品紹介4/スラップスティック調な2作品

山森ススムといえばミステリーというのが一般的な認識かと思われるが、ドタバタ喜劇(スラップスティック)を意図して制作された作品もいくつか存在する。「誌上リサイタル」、「おいらはギャング」の2作品の完成度には脱帽する。人情噺的な雰囲気は薄いが、つのだじろうの「ブラック団」を髣髴とさせるところがある。

 ①「誌上リサイタル」

 山森ススム/14p/雑誌形式/影34集/日の丸文庫/A5判/1959年(昭34)/150円/劇画工房のマークあり 

あらすじ宝石店に押し入る二人組。盗難よけに鍵穴が沢山あるムチャクチャな金庫をなんとか開けようとする二人であったが、宝石店の人間に見つかり警察へ連行されてしまう……。このまま2人は捕らえられてしまうのか?と思いきや、意外なラストが待っていた。

解説流麗な太めのペンタッチが印象深い、洒落た画風である。今、講談社のコミックモーニングに、このまま載ってても違和感がないのでは?と個人的には思う。

「誌上リサイタル」の扉ページ。写真は山森氏。
「誌上リサイタル」の扉ページ。写真は山森氏。
 

作者による「まえがき」があるので、全文を引用しておく。

リアルな画風に合理性をおびたストーリー物の短編は数多く発表されています。でも、ストーリーは従来のままで、画風をスッカリ変えて組合わせればどんな物が出来るだろうかと思って試みてみました。今後、この画風で今まで通りの合理性を折込み、その中へギャグ(笑い)を多分に入れれば面白い作品が出来るだろうと思っています。

作品冒頭。夜の街の描写にも山森作品の特徴が出ている。
作品冒頭。夜の街の描写にも山森作品の特徴が出ている。
金庫破りを試みる2人。
金庫破りを試みる2人。
 ②「おいらはギャング」

 山森ススム/40p/雑誌形式/オッス第2集/日の丸文庫/A5判/1961年(昭36)/150円 

あらすじ2人のギャングが銀行強盗を企てるが、同業者のギャングに大金を奪われてしまう。大金強奪に失敗してしまう2人であったが、警察は彼らを銀行強盗として執拗に追いかける。逃亡を図る2人だが、警察もしたたかで簡単には逃がしてくれない。マンホールから地下歩道に入り、地下歩道内を駆けずり回ったり、なんとか逃亡を試みるが・・・・・・。2人の運命は……?

作品扉ページ。各ページ共、全体的に白が目立ち、山森作品の中では趣が異なる作品だ。
作品扉ページ。各ページ共、全体的に白が目立ち、山森作品の中では趣が異なる作品だ。
 
ノッポとチビのコンビ。なかなかうまく事が進まない。
ノッポとチビのコンビ。なかなかうまく事が進まない。
地下歩道内を走り、車と競争。
地下歩道内を走り、車と競争。
ドリフのコントのようなユーモアたっぷりのドタバタ劇だ。
ドリフのコントのようなユーモアたっぷりのドタバタ劇だ。
 

解説ノッポとチビの2人が繰り広げるドタバタ・スラップスティック。悪ノリし過ぎな気がしないでもないが、ハチャメチャさ加減が小気味良い、完成度の高いスラップスティック作品だと思う。ページ数が40ページとやや長めなのも興味深い。ミステリーに代わる新境地を開拓しようという強い決意のようなものがあったのか?それとも、単なる息抜きに作風を変化させてみたのか?今となっては想像するしかないが、この当時、ここまでのスラップスティックものをマンガで表現できていた事自体、凄いのかもしれない。人情噺的な側面はほとんどないが、つのだじろうの「ブラック団」を思わせるようなところがある。

☆作品紹介5/ぼくとオモチャ

 山森ススム/11p/雑誌形式/影34集/日の丸文庫/A5判/1959(昭34)/150円 

・生活エッセイ的な作品である。

解説山森ススム氏宅を学生服姿の井上君が訪ね、山森先生の趣味について話を伺うという、生活エッセイ風の趣味紹介マンガ。

テレビの修理ラジオの組み立て8mm映写機模型飛行機サイクリング自転車、そしてオートバイ。山森氏の多趣味ぶりがわかる内容である。

「ぼくとオモチャ」扉ページ。
「ぼくとオモチャ」扉ページ。
 
井上君がテレビの修理をしにやって来る。
井上君がテレビの修理をしにやって来る。
大きなハイファイラジオ。模型飛行機も。
大きなハイファイラジオ。模型飛行機も。
山森氏自慢のスウェーデン製のバイク。
山森氏自慢のスウェーデン製のバイク。
 
・「誌上リサイタル」「ぼくとオモチャ」掲載の『影』34集について

『影』34集は表紙に「山森ススム誌上リサイタル」と記載があり、「小特集・山森ススム」的な趣きがある内容となっている。山森氏に関する実質的なコンテンツとしては、

さいとう・たかを氏による山森氏の似顔絵K・元美津による「キング・オブ・スリラー 山森ススム君へ」と題された文章/1p

「誌上リサイタル」と題した山森ススム作品/14p

「ぼくとオモチャ」と題した山森ススム作品/11p

特筆すべきは、「治虫夜話第二夜」(手塚治虫/4p/絵入りショートショート)の収録だろう。

 

☆作品紹介6/ショートマンガ(「おれは死人」巻末)

作品紹介3で取り上げた「おれは死人」の巻末にページの埋め草的に描かれたものと想像するが、失礼な言い方かもしれないが、思いのほか完成度が高く、個人的には大変面白かった。

近年よく見かける、4コママンガ中心の雑誌にありそうなテイストの、見開き2pの作品。
近年よく見かける、4コママンガ中心の雑誌にありそうなテイストの、見開き2pの作品。
 

◎掲載誌の他の作品について

(1)「摩天楼第10集」併録作品
「悪夢の世界」石川フミヤス(31p)/「鬼」桜井昌一(32p)/「雨」小倉一夫(16p、A6横)/「おこわい留守番」K・元美津(36p)59.12のサイン有り/「死」小倉一夫(16p、A6横)

(2)「影 第34集」併録作品
『顔のない少女・前編』鈴木洸史(24p)/『脅迫者』影丸譲也(76p)59.7.5-J・Kプロのクレジットが扉にある/『波の挑戦』K・元美津(23p) /『暗殺者』山口ヨシヒロ(24p)/『鏡は怒る』田中ヒロオ(27p)/『ピストルの歴史(読み物)』さいうんしょうじ(2p)/『俺は殺る』水島新司(36p)/『治虫夜話第二夜(絵入りショートショート)』手塚治虫(4p)/『誌上リサイタル』山森ススム(14p)/
他に、1pのマンガ家仲間の紹介ページあり(1p) 『キング・オブ・スリラー山森ススム君へ』 え=さいとう・たかを、文=K・元美津

(3)「オッス第2集」併録作品
「ダルマが天からふってきた」水島新司/「お池のコイ」辰巳ヨシヒロ/「吹雪」影丸譲也