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辰巳ヨシヒロ『太陽を撃て』を読む

●太陽を撃て・前説

 マンガ家辰巳ヨシヒロの名を知っている・・・この事実だけで、マニア度の高いマンガの読み手である、と言い切れる。大げさなようだが当たらずとも遠からずというところでしょう。しかし、辰巳ヨシヒロの作品を、それなりに読んだ事がある人にとっても、この『太陽を撃て』は「知らない」作品である場合が多いと思います。丸っきりの想像ですが、2002年に青林工藝舎より刊行された『大発見』収録の「全作品リスト」でその存在を初めて知った人が多いのではないでしょうか?

●書誌的なデータ等

(1)連載 読売新聞社週刊読売にて連載。1984.7.29号(1984年第XX  号より連載開始。全35回で、1985.3.31号(1985年13号)に連載終了。1回あたり16ページで全560ページ(16×35=560)。1984年〜1985年は昭和59年〜昭和60年に相当。

(2)副題など 副題として「バイオ・チャレンジャー」と付されている(連載1回目より最終回まで、すべての扉ページに於いて)。また、第一回目の扉には「新連載スタート!!」という惹句と共に「日本初のバイオアクション劇画」の文言がある。

(3)単行本化 単行本化されていない。記憶がうろ覚えですが、講談社(多分)の何かのマンガ単行本の巻末広告か、カバー(そで部分か?)の広告で、「太陽に撃て刊行の予定」を見かけた記憶があります。折に触れ、マンガ収集の同好の士?に、この広告の存在について尋ねているのですが、私の記憶を裏付けるような証言は得られていません   ⇒ 『情報求む』ですね。

(4)作者辰巳ヨシヒロ自身が語る本作品・太陽を撃て 辰巳氏最晩年の著作(自伝と言ってもよいだろう)『劇画暮らし・2010年10月・本の雑誌社』にて、この作品についても言及している。情報量自体は多くは無いが、連載に至る経緯と制作にまつわるエピソード、作品の骨格についての記述がある。

(5)個人的体験  連載当時、ハクダイは19〜20歳の学生でした。(ハクダイは1964年9月生まれ)。最寄り駅近くのK書店の店先で、掲載誌連載中のこの作品をチラッと眺めた記憶があります(多分1回か2回のみ)。『地獄の軍団』の雑誌連載(漫画サンデー連載)をリアルタイムで幾度かは読み(多くは無い、10回は無いだろう)、小中学校よりの友人K君より『地獄の軍団・単行本全6巻』を借りて読んでいたし(18歳頃)、小学館漫画文庫の鳥葬、コップの中の太陽、秋田漫画文庫のてっぺん〇次は既に所有していた。若干、時系列が前後するかもしれないが、コミックばくとマイルドコミックの連載作品はリアルタイムで雑誌を読んでいた。なのだけど、連載中の『太陽を撃て』を本気で追いかけることはしなかったわけですが、今にして思えば失敗したなあ・・と(苦笑)。どうでもいい情報ですが、ガロ発表の『大砲』とかも、中古で手に入れたガロで読んでいたし、ヒロ書房から出た単行本も何冊かは入手していました、この当時既に。情報が少なかった当時にしては、結構頑張ってましたね、自分(苦笑)。

(6)この作品へアクセスするのは容易ではない この作品を読む事は、長年の懸案事項でした。まあ、週刊漫画TIMES連載の未単行本化・辰巳作品も殆ど読めていないですが。とは言え、週刊漫画TIMESは、それなりに古本が流通しているのですが、週刊読売は、あまり市場に出ないようで(素人なもので探し方がぬるいのでしょうけど)、1回分でさえ読む事がが叶わない状況でした。しかし、ある時、基本に立ち返って、国会図書館のデータベースにアクセスしてみたところ、週刊読売のバックナンバーが保管されていることが分かり、コピーを依頼、念願叶って、この作品を読むことができたのでした。連載(掲載)誌が、通常のマンガ雑誌では無かったが故に、古書市場では入手できない、マンガ雑誌では無かったがために、公的図書館に蔵書されていた、という、なんとも皮肉な結果になっているかと思う次第です。

●作品内容紹介

ネタばれになるのは粋じゃない?でしょう(苦笑)。エンディング含めてのストーリーの全貌を、ここで明らかにすることは控えますが、作品世界の概要というか作品の持つ雰囲気は伝えたいです。

1.登場人物たちのカテゴライズ 物語の骨格を理解する意味で重要です。つぎの三つにカテゴライズされる。

(1)ムー大陸に暮らしていた『ムー帝国』の末裔たち 『ムー帝国』は、高度なバイオテクノロジーを滅亡当時にして、既に持っていた。ムー帝国の末裔たちは、バイオテクノロジーを更に高度に発展させ、それによりムー帝国の復興ひいては、全世界の安定統治を構想している。

(2)ムー帝国の末裔への協力者 協力者の筆頭が、本作品の『主人公・有明健・ありあけたけし』である。有明健は、ムー族の末裔たちにムー族の三人の王女を探してくれと頼まれる。ムー帝国再生のシンボルとして三人の王女の存在は大きく、有明健は、この依頼を受ける。この三人の王女を探す出すミッションこそが、物語の縦軸となっている。三人の王女の父は、ムー帝国の帝王ラ・ムーの子孫にあたる。

(3)謎の組織・レムリアコネクション 世界的規模の破壊集団。『帝王・キング』と呼ばれる男がトップ(首領的存在)である。ムー族の末裔たちと敵対する存在であり、当然、主人公・有明健と敵対する。この敵対こそが物語の横軸となっており、有明とレムリアコネクションとの間で繰り広げられる戦闘〜アクションシーンは、娯楽作品としての本作品において欠かせない要素となっている。

2.主要登場人物

(1)有明健/ありあけたけし 主人公 グローバルな活動をする総合商社に勤務していたが、会社(仕事)や世界(グローバル)情勢、人類の行く末など、いろんなモノに対して漠然とではあるが怒りと不信感、不満を募らせていた。バイオテクノロジーを応用し、人類を平和へ導くというムー王国の考え方に共鳴し、ムー族の末裔たちへ協力する生き方を選ぶ。

(2)有明健が探し求める三人のムー王国の王女 物語上重要な役どころである。ムー族の復興運動のシンボルとして、王女たちを探し出したいムー族の末裔たちが、有明健にムー王女探索に手を貸して欲しいと依頼することが、物語の発端となっている。物語が進む中で、三人のうち二人までは「発見」されるが、最後の三人目の正体はなかなか明らかにならない。ほぼエンディングにおいてやっとその存在が判明する。三人の王女たち(及び王女らしいと思しき女性)は、皆が皆美女、美人であり、彼女たちとベッドインする場合が多い。

(3)バイオテクノロジーの研究者・山田  有明健と、同じ大学のボート部に所属していた。ムー族の末裔の行うバイオテクノロジー研究における重要なメンバーである。有明健がムー王女探索に手を貸して欲しいと依頼されることが、物語の発端となっているが、山田こそが有明健に協力を持ち帰る役どころである。彼自身の研究者としての経歴、ムー族の末裔たちとの接触に至る経緯については不明(作中、明らかにされていない)。東北の農村(いわゆる寒村)の出身である。

(4)留川(トメさん) サラリーマン時代の有明健の上司。人は良いが企業人としては、出世するようなタイプでは無い。飢餓に苦しむアフリカの人々を救う救援活動ボランティアに会社を辞めて参加する。フルネームは明らかにされていない。一人娘の房子と二人暮らし。

(5)房子(留川房子)  トメさんの一人娘で、浅草にある居酒屋「酒処・たぬき」の女将である。有明健とは、お互いに好意を感じている仲である。年齢については作中触れられていないが有明健と同世代だろうか?居酒屋の女将であるためか、妙に落ち着いた雰囲気〜印象があり、意外に年齢は高いかもしれない。

(6)摩耶(渚摩耶/なぎさまや) ムー族末裔(直系?らしい)でその幹部的な存在 有明とは相思相愛に近い関係である。

(7)帝王/キング  世界的規模の破壊集団・レムリアコネクションの首領的存在の男。禿げ頭でやや太めの体型、いわゆる”恰幅が良い”感じ。昭和の反社会的組織のボスという、ステレオタイプな表現がピッタリかもしれないです。

(8)キール博士 レムリア・コネクションの科学者・バイオテクノロジーの専門家。片目眼帯の男で、マッドサイエンティスト的なキャラクターだが、常識人的な一面も感じさせる。

(8)城北署の刑事二人(古川・宍戸) 有明健を得たいの知れない男として疑いの目で見ているが、物語終盤、レミリア・コネクションの存在に気付き、有明への態度が協力的なものに変わる。

3.作品理解のための重要キーワードなど

(1)古代ムー帝国  古代ムー帝国は、高度な文明をもった帝国だが、一万二千年前に一夜にして太平洋に没したといわれる。ムー文明(≒ムー帝国)は、建築と航海術にすぐれ併せて高度なバイオ技術をもっていた。ムー族の末裔は世界各地にいて、強い結束を持ち、高度なバイオ技術を近未来に生かしてこの世にユートピアを建設する夢を持っている。

(2)ムー族のバイオテクノロジー(バイオ技術)  ムー族の末裔たちが研究(実用レベルのモノが多いか?)しているバイオテクノロジーとしては次のようなものがある。 ①数十倍の生育速度を持つ水耕栽培による植物工場、②通常の数倍の大きさの乳牛がいる地下牧場、③水素生産菌が作り出す、海水からの水素エネルギー。④バイオ鉱山;特殊なバクテリアが鉱石に含まれている金属を溶かして回収。⑤カメレオンのような擬態が可能な特殊な繊維。⑥二重水素と三重水素による人工的な太陽エネルギー。⑦超能力発生装置・サイコトロニクスジェネレーター。いわゆる念力(バイオエネルギー)を蓄積増幅して電子ビームのように放出する装置。(*)古代時代に、ムー帝国にどれほどのバイオテクノロジーが存在したかについて具体的には触れられていない。 連載当時における、最先端の技術的、工学的な知見を踏まえているでしょう。

(3)有明健が受けるトレーニング ムー族の末裔たちによって、超人的なパワーを得るべくトレーニングを受ける有明。そのトレーニング内容は次のようなもの。

①八か国語の外国語・サジェストペディアという高速学習法。 バイオテクノロジー研究者・巴(ともえ)がこの学習法に関わっているようである。

②バイオ武道/生体道  観念で磁場を自在に操るものであり、宇宙からのエネルギーライン(光子線、電子線)と人間のエネルギーラインをつなげ、自分の体内に小宇宙をつくる。頭部が異様に変形した修行僧的容貌の男「妖蛾・ようが」が有明へ指導〜伝授する。

③効率的な泳法  水中摩擦をカットする特殊な皮膚塗膜オイル、呼吸用の人工エラ、イルカの持つ能力よりヒントを得たとされる音響レンズと呼ばれる特殊なセンシング(感知〜検知)能力、これらを使っての泳法。体育会系教官的風貌の男ヤマシタが有明の指導担当。

④性欲コントロールと女性への性的完全奉仕  有明の教育&身の回りの世話の担当である女性ルナは「世界各地から選ばれた十人の美女」を「一晩に、この美女たち十人を平等に愛する」ようにと命じ、それに応えて『懸命に励む』有明であった。「性欲は煩悩のひとつだが、それを超越するのだ」と有明に説く妖蛾。妖蛾は、インドに伝わる性の教典「カーマ・スートラ」を引き合いに出し、修行に励めよと有明に説く。妖蛾は「性の達人」的な能力を持ち、有明も修行により妖蛾同様の達人の域に達する。

(4)惚れパシーと王女の証である尻の刺青(タトゥー) ムー族王家では生まれた赤ン坊のお尻に『証しとしてのエンブレム」を特殊な刺青(タトゥー)で施す習わしがあり、そのエンブレム/刺青は普段は分かりにくいが、興奮すると皮膚の上に浮き上がり明瞭になる、という事になっており。有明はムー王女と予測される女性たちとベッドインし興奮させて、尻のエンブレム/刺青の存在を確かめる必要がある。有明が、女性と親しくなるために、女性に対して送る「惚れさせるために送る想念」が「惚れパシー」である。「惚れさす」+「テレパシー」からの造語であることは言うまでもない。尚、作中では刺青(タトゥー)は「イレズミ」と表記されている。ムー王女の尻のイレズミの存在はエロティックなシーンを出来るだけ描きたいと考えた作者による演出と考えます。

(5)レムリアコネクションの帝王(キング)の計画  近い将来に超大規模な人工地震を発生させる事で地殻の大移動を起こし、1万2千年前に海底に没したムー大陸を浮上させ、アメリカ大陸、アジア大陸は海底へ沈めようというのが帝王の計画である。そのため、レムリアコネクションは太平洋の複数のポイントで人工地震の実験を繰り返している。また、彼らは核ミサイルを保有している。米軍の核ミサイルを奪取するなどして核を保有してたようだが、核爆弾の製造能力を持つかどうかは作中、触れられていない。

 帝王(キング)を発言の幾つかを。『戦争、裏切り、自然破壊、思いつく限りの不法行為を続けてきた人類は滅亡するしかないんだ』、『破壊だっ!! この腐りきった地球を救う唯一の方法は破壊しかないんだ』、『誰であろうと、わしに逆らう奴らは、ことごとくひねりつぶしてやる』 高邁な理念を持っているのか?狂気的な妄想を抱く男なのか?作者の意図はどの辺にあるのだろうか?

(6)新人類 レアレム・コネクションのバイオテクノロジーによって生み出された生物が新人類であり、その第一号が、ゴリラと人間の融合による「ゴリマン」、第二号は、チンパンジーと人間の融合による「マンパンジー」である。ゴリマンは、腕力は人間の十倍であったが知能が劣っており、マンパンジーはチンパンジーのしなやかな体と人間の優れた知能を持つとされる。これら新人類はキール博士によって生み出された。

(7)帝王(キング)の野望 新人類を人間と動物のそれぞれの長所を持つ、この世で最高の芸術作品だとと豪語する帝王(キング)。古代ムー帝国が世界中から集めた金銀財宝を手に入れ、浮上したムー大陸に新生レムリア帝国を建設する事こそが、帝王(キング)の野望のようである。人類は滅亡し、新たに創造された『新人類』たちが生きる世界こそが新生レムリア帝国である、と。
帝王(キング)は語る「レムリア英国は理想郷・ユートピアであり、(自分は)帝王として君臨するのだ」。そして、キール博士に対しては「あんたは大統領閣下だ」と語る。(5)(6)(7)と、レムリアコネクションについて書いたが、作者が「彼らを狂信的だが、十分存在しうる集団」として造形しえたか?未消化部分が多い故、いくぶんエキセントリックになってしまったのか?微妙ですが、その判断は読み手に委ねられているでしょう。

(8)作品タイトル「太陽を撃て」に作者は何を託したのか? 「太陽を撃て」に作者がいかなる意味を込めたのか?作品全体を通して読んでも、100%明確は回答は得られないまでも、神をも恐れぬ無謀な行為への戒めとしての言葉であるという意味であると考える。帝王(キング)と有明が直接対峙(対決)するシーンで、”あんたは狂っている、バカげた計画は中止しろ”と迫る有明に、帝王(キング)は ”わしはやると決めたことはどんなことでも、やってのけるのだ。太陽だって撃ち落としてやるぜ” とうそぶく。

 核爆弾により地中に沈んだ古代ムー帝国を浮上させようとする帝王(キング)の試みは、有明とムー族末裔たちのバイオエネルギーにより阻止される。そして人工大地震によってムー帝国浮上を引き起こそうとする帝王(キング)の次なる試みも失敗し、帝王(キング)は発狂してしまう。帝王(キング)は、極めて小さな島を巨大な古代ムー帝国と思い込み、”くそおっ 撃てーっ 太陽を撃ち落とせ” と叫び、部下たちにも見放されてしまう。帝王(キング)の野望を打ち砕いた有明は 最終回において”帝王(キング)の夢は太陽に矢を射るようなものだった”と口にするのだった。

●作品解題(解題めいたモノ)

1.辰巳ヨシヒロらしさが詰まった作品 辰巳ヨシヒロというクリエーターが精魂かけて作ったという感じがします。経済性重視、物質至上主義など、近現代の懐疑を根底に据え、バイオテクノロジーという技術に希望を見出して人類にとっての明るい未来を展望しているスケールの大きな作品である。エンディングにて作者は、主人公有明に「バイオは双刃の剣(もろはのけん)だ、人類の幸せのために、限りなく役にたつが悪用すれば神への冒とくとなる」と語らせている点も興味深いです。ムー王女を探し出すというミッションを縦軸に謎の破壊集団との抗争を横軸に深みと奥行きのある娯楽作品の構築の成功しているでしょう。また、アクション作品としての面白さに並立するかたちで、エロティックな娯楽作品としても成立すべく、作者辰巳ヨシヒロが腐心している事が伺えます。主人公有明は何人の美女ちと『交渉』を持ったでしょうか?具体的に数えていませんが、男の夢を叶えます的な文脈で言えば王道的な娯楽作品のフォーマットを持っていると言えるでしょう。まあ、近年は女性蔑視と見做される場合が増えつつあるのかもしれませんが。

 ムー王女を探すために、有明はパリ(フランス)マドリード(スペイン)へ赴き、そこでレムリアコネクションとの死闘を繰り広げる。また、有明は、飢餓地域であるアフリカ・タンザニアへ行き、ボランティア活動にも従事する。フランスを舞台にする事については、本作に五年ほど先行する『地獄の軍団』でも行われているが、作者辰巳ヨシヒロのヨーロッパ滞在経験が生かされていると思う。

 登場人物が比較的多く、”セリフがある”を基準に考えてみても少なくても約40名。各キャラクターの描き分けも見事で、大友克洋以降と言うのが適切かどうかは分からないが、細い線で高密度で描き込むスタイルが多い現在のマンガ状況からすれば、少数派の手描き感の強い、やや太めの筆致(タッチ)で、ここまでキャラクターを描き分けられる辰巳ヨシヒロというマンガ家の上手さを改めて再認識できる作品になっています。1985年当時にして辰巳ヨシヒロのようなスタイルは、少数派になりつつあった、という認識ですが。

2.いくぶん辛口な評  辰巳ヨシヒロがデビューしてからの約30年間で、マンガ表現は大きく変容した(進歩進化した)。当然、辰巳氏自身のマンガ表現も変容しているのだが、マンガ全体の変容さ加減と比べれば、明らかに見劣りしていると言わざるを得ないであろう。連載から30年以上経過しているとは言え、30年前の読者が感情移入して読み込んだとはとても思えない。とにかく、一言でいえば古臭いし洗練されていない。

 悪の組織「レアレム・コネクション」の存在は、謎めいているという点では面白いのだが、いかんせん、昭和30年代の貸本マンガ的な雰囲気が濃厚の悪役である。首領的な存在の帝王(キング)、そしてその部下たちも、いったいいつの時代だ?という感じだ。ミレアムの用いる兵器の設定、描写がいかにもおざなりな印象で拍子抜け。核兵器を取り上げるのであれば、それなりに裏付けが無いと読者は納得しないでしょう。バイオテクノロジーを応用した技術については、それなりに説得力がある事も少なくないのだけど、底が浅いというか奥行きが無いというか、粗雑な印象は免れない。

3.更に深読みあるいは『斜め上』的読み  全くの推測であるが、制作側への掲載誌の編集サイドからの商業的な要請や、人気ランキングや読者の評判などの情報提供は比較的少なかったモノと思う。この連載誌であったればこそ、それなりの長期連載が可能であったのかもしれない。マンガ専門の雑誌であったら、もっと短命連載であったかもしれませんね。あくまでもハクダイ個人の想像ですが。

 エロティックな娯楽漫画的な要素が多いのは、編集サイドの要望というより、商業作家辰巳ヨシヒロのプロ意識、サービス精神の発露ような気がします。70年代後期に少なくない数手掛けたエロティックな要素が強い娯楽作品で培った成果と言えるでしょう。あくまでもハクダイ個人の感想)。編集は、そこまで要求しなかったのでは?と思う次第。

 マンガ家辰巳ヨシヒロは、さいとう・たかを率いるさいとうプロのような、システマティックなマンガ制作システムを採らない、という立場を終生貫いた。そんな風に思う次第です。辰巳さんは自著にて四人のアシスタントが居た時期があった旨書いていますが、それは、手塚治虫登場前の古きよき時代の徒弟制度が色濃く残る「児童まんが」の頃と、大きく変わらない『師匠(先生)と弟子たち』という関係と変わらないモノであったかもしれません。

 さいとう・たかをのデビルキングの貸本版(1964年)と雑誌連載版(1969年)を読み比べてみると分かるのだが、リメイク版に当たる雑誌版は、作劇〜物語展開や個別の設定に格段の進化が見て取れる。科学的な裏付け、社会的、経済的な根拠、法治国家である現代日本を舞台とした作品であること等々、絵空事とならないように十分過ぎるほどの配慮がなされた上で、「雑誌版・デビルキング」が制作されているのがわかります。辰巳さんの「太陽を撃て」は、質感としては雑誌版よりは「貸本版・デビルキング」に近いかなあ、というのが率直な感想ですね。

●参考資料 

1.連載各回の扉部分のコメント(キャプション)

回数  連載各回の扉部分のキャプション
1. 日本初のバイオアクション劇画 新連載スタート!!
2. なし
3. なし
4. バイオ・コンピューターの資料を奪われ有明は賊の凶弾に倒れる!!
5. なし
6. 美女摩耶からムー族王女捜索の依頼を受けた有明は決断を迫られていた
7. 摩耶との愛とのために秘密組織(ナカール)に入った有明 そこには眩いばかりのバイオ技術が・・・
8. 有明の前に立ちはだかる老武道家 その恐るべきバイオパワーの正体は!?
9. ナーカルのハーレムで十人の美女たちに囲まれ有明の情欲はついに爆発した!
10. ハーレムで展開される異様な光景 美女と絡む老師・妖蛾(ヨウガ)の姿に驚愕する有明!!
11. 話題沸騰!!
12. 摩耶との愛を確かめる間もなくパリへ急いだ有明!! 古都を舞台に物語(ストーリー)は佳境に!!
13. ムー王女捜索の手がかりを掴んだ有明・・・しかし背後にはレムリア・コネクションの影が!?
14. 事件の鍵を握るアリの迫るレムリアの怪物(モンスター)!? ムー王女はジプシーに売られていた!!
15. TEEの客室(コンパートメント)に現れたレムリムのバイオ怪物(モンスター)!!
16. レムリアの追撃を逃れてラ・マンチャに着いた有明、ムー王女の行方は・・・・!?
17. 艶やかな舞姫マリア 果たして彼女はムーの末裔か・・・
18. 執拗なまでのレムリアのの襲撃!! 舞台は地中海の港町バルセローナへ・・・
19. 華麗な女闘牛士テレサ 健の惚れパシーは通用するか?!
20. ムー王女・テレサに迫るレムリアの魔手・・・細胞融合モンスター ゴリマン・シルバー死す
21. 話題騒然!! マスコミ・経済界でバイオ注目度ますます高まる
22. 飽食の日本を離れアフリカに向かう健 バイオ技術(テクノロジー)は飢餓を救えるか!?
23. 飢餓に挑戦する健のバイオ・パワー
24. 独走!!バイオアクション 週刊読売だけのNEW劇画 『劇画』の名付け親が執筆
25. 世界の飢餓地帯をバイオテクノロジーで救えるか?! 告!食品製造企業、生物研究所、関連諸団体、必見。バイオ劇画!!
26. アンはムーの王女だった 再開した健と摩耶・・・揺れる二人の心 そして執拗に迫るレムリアの魔手
27. 人気沸騰!! 有明は太陽に照準を絞った・・・いよいよ・・・
28. レムリアの入った健と摩耶 そこで見たものは・・・地上にハルマゲドンが近づく
29. 奇怪な”新人類”を乗せたノア号の行く手は・・・
30. イースター島に再び集結したナーカルのメンバー いよいよレムリアとの全面対決が始まる!! 人類の未来を賭けて・・・バイオチヤレンジャー何処へ。
31. いよいよ佳境(クライマックス)に!!
32. イースター島に迫る狂気のミサイル!! バイオ・エネルギーは現代兵器(スーパーウエポン)に通用するか?!
33. ついに結ばれた健と摩耶・・・
34. 東京で再開した健と山田 ムー族最後の王女は何処に・・・
最終回35. ついに発見された第三のムー王女 揺れる健の心・・・さらば バイオチャレンジャー また逢う日まで

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-----------------------------2019.10.23記す(今後、追加と修正の予定あり)/2019.10.27追記(参考資料1.)