影30集 日の丸文庫

貸本漫画 影・30集 日の丸文庫を読む機会に恵まれました。個人的な印象ですが、影は古くなればなるほど、番号が若いほど、アクセス(読むなり購入するなり)が困難になります。

・発行年は昭和34年の3月頃と推測。山森ススムと桜井昌一の両作品には劇画工房マークがありますが、松本作品には無し。松本正彦の劇画工房への参加は若干遅れたわけですが、松本加入前の「劇画工房七人体制」の時期となります。

KAGE30_20220215191316_crop

・影丸譲也(1940ー2012)は19歳頃の作品となります。劇画工房同人より3〜5歳程度若いわけですが、先行した作家たちの良いところを貪欲に吸収して急成長していた時期かなあ?と思います。殴り描きに近いとでも言ったらいいのでしょうか?独特のタッチを持った作家さんだったと思います。テクニックがあった上での殴り描きタッチ故に、フォロワーが出にくかったように思います。キッチリ描く方が易しいのかもしれませんね。荒々しさを出すための独自の筆致(タッチ)であり、殴り描きという言い方は好ましくないかもしれませんげ。女性の描き方は、関谷ひさしの影響も伺えます。影丸譲也(穣也)は、原作付きの作品が多かった作家というのが一般的な見方であろう、と思いますが、原作無し作品にも、良い作品が多いと思います。

・水島新司(1939-2022)

 この時期は、水島さんにとっては、『大阪日の丸文庫で働きながら、漫画家のキャリアをスタートさせた時期』ということになるのでしょうが、その後約60年近く、連載を持ち続けるA級クラスの商業作家として活躍続けるわけですから、この才能に、この時点で注目できた、というのは実はすごい事なのかもしれません。

以下、各作品を紹介します。

(1)アンソロジー駒画 雨降る夜 松本正彦 18p Ⅱ.59と表紙に記載。劇画工房マーク同様に、駒画のシンボルとしての「マーク、図案」があります。

 ・ストーリー:東京都内のアパートで大学受験を控え勉学に励む主人公中野治。雨の降るある晩、小学校で親友だった国分寺が中野の前に突然現れる。すっかり面影が変わってしまったが国分寺であったが、中野は国分寺を精いっぱいもてなす。が、翌朝、国分寺は忽然と消えていた。国分寺の実家に手紙を送って彼の現況を尋ねてみると国分寺は最近自殺していた事が分かった。雨の夜、中野の前に現れた国分寺は幽霊であり、中野と国分寺が小学校の卒業時に交わした約束を果たすために姿を現したのであった。

・解題:古臭い印象は免れないものの、情感漂う作品。原案に近いアイデアの小説があるような気がしますが、この味わいは松本作品ならでは。

(2)クイズ部屋 私は殺される 桜井昌一 18p(+解決編2p) 劇画工房マークあり

 ・ストーリー:土蔵にこもり切りでほぼ外へ出ない生活をしている初老の男。「あなたは身内のものに狙われている、気を付けよ」という巫女の神託を信じ、怯えながら生活しているのだった。男は国宝級の雪舟の掛け軸を所有しており、医者の武田は、その掛け軸見たさに、男を度々訪れている。男の二人の息子は父親に借金を申し入れたいが、巫女の神託を信じる男は二人の息子とは会おうともしない。息子二人は土蔵の合い鍵を作り、土蔵に入り込む事に成功するのだが、頭に銃弾を受けた父の遺体を発見するのであった。犯人は誰か?

 ・解題:いつも感じることだが、桜井昌一作品は、素直に(字面通りにというのも変な言い方だが)解釈、受け取っていいものなのか悩ましい。斜め上

(3)アクションスラリー 末路 影丸譲也  59.3と表紙に記載あり(1959年3月制作の意であろう)

 ・ストーリー:五人ほどの男たちが、一人名の男を追っている。どうやら犯罪組織内での仲間割れのようである。追われた男は、とある家に身を隠すことに成功するが、その家に住む少年は、兄を亡くしたばかりで、その遺影の前で線香が煙を上げていた。そして少年の兄は麻薬Gメンであった。少年は医者を呼ぶなど親身になって男を助けようとする。大がかりな麻薬取引を巡り、少年と追われていた男の人生が交錯していく。

 ・解題:上手いなあ、と思わせる。昭和16年生まれなので若干18歳。先行の先輩たち〜劇画工房同人など、ひとりひとりの良さを取り込み見事に消化していると、言えるだろう(まだ途上なのかもしれないが?)。

(4)題名募集作品発表 スリラー小劇場「道連れ」 山本まさはる 下半分のみサイズで16p

 ・ストーリー:胃がんで余命いくばくも無いと医師に宣告を受けた男は、どうせ死ぬなら、と多くの悪事を犯している旧友の男を道連れにしてやろうと一計を案じるのであった。

(5)題名募集作品発表 僕に過去がなかったら 水島新司 43p 34.2.20と記載あり。

・ストーリー:それぞれ浮浪者だった三人の男は、悪事を働いていたものの、懸命に生きて来た。前科がつかないようにと、注意していたものの組織に属する身ではどうにもならなかった。懲役1年の刑に服した後出所した三人は、まっとうに生きると近い、二年後の再会を約束してそれぞれの道を歩むことにするのだが・・・。

・重いテーマですが、希望を抱かせる水島節は、この時点で既に完成していると言っても過言ではないでしょう。

(6)OK劇場 おばたかづひろ 奇妙な男 上半分のサイズで16p

・ストーリー:とある洋館で、ボロつぎがたくさん施された衣類をまとった男が倒れているのが発見された。洋館の当主は男に問いただすが、男自身、どうしてここで自分が倒れているのかが分からない。だが、当主が男を尋問していくに意外が事実が明らかになって行く。

(7)新作長編80枚の代力作 恐るべき予言 山森ススム ページ欠落のため詳細のページ数不明。劇画工房マークあり

・ストーリー:父の言いつけで銀行の貸金庫へ預けてあるダイヤモンドを取りに行く少年は、未来の事が分かるという不思議な雰囲気の男と出会う。その不思議な男は、少年の父がライオンに噛まれて命を落とすだろうとの予言をする。少年と父は全くのデタラメであると思い込もうとするが、だんだんと不思議な男の言葉に捉われていく。

・解題:山森ススムらしい、心理スリラー。北大路竜之介の怪演とでもいうべき独特の佇まいが印象的。また、自動車で移動するシーンの臨場感はこの当時の漫画表現にあっては特筆すべきレベルであると思う。

2022.4.11アップ。(山森ススム先生蔵書を使用して作成)