貸本から雑誌へ―さいとうプロの作画チーフとして。
ここでは、貸本時代のいわゆる青春物と、雑誌に移行後のさいとうプロでの主要な仕事について紹介したい。
1.貸本時代に描かれた石川フミヤスの傑作「青春物」の数々
(1)「青春の息吹」シリーズ~長編「青春日記」全8巻
さいとう・プロより1963年から1964年(頃?)(昭38~39)にわたって発表されたシリーズ。都合15冊が刊行されたようである(調査不十分のため誤りがある可能性あり)。
以上、7冊。全て単巻での刊行。
唐橋司朗の友人として、著者自身である「石川文康」も登場し、終戦から間もない、昭和の日本に生きる人々の慎ましい生活が描かれている。罪物、ミステリーという趣はほとんどなく、「庶民の生活の記録」としてのマンガといった印象。当時、ここまでドキュメントタッチな作品はそう多くは存在しなかったと思われる。この作品が忘れ去られるのは、あまりにも残念である。現行のマンガ家によるリメイクがなされれば面白いと思う。
(2)「青春無頼帖シリーズ」
石川フミヤス /東京トップ社
シリーズが最終的に何集(号)まで続いたかは不明だが、ハクダイ手持ちのシリーズ5作目に6作目の予告が載っているため6作目までは存在した可能性が高い。
(3)「十代シリーズ」
石川フミヤス /三洋社
このシリーズも、手元の資料ではシリーズが何作まであったのか確認できていない。 2作目の「黒い花」の表紙には、”テンエイジャー トルース・ストオーリイ”と記載されている。(teenager true story?)
(4)その他、貸本時代の石川フミヤス
2.雑誌時代の代表作
単行本化の際、石川フミヤス作品として明確にクレジットされている作品がいくつかある。石川フミヤス名義で雑誌掲載され、単行本化されていない作品も少なからずあると推測される。
(1)かまり弁天
①単行本化は2回と推測している。
・1回目: 石川フミヤス /リイド社SPコミックス版/初版1975年(昭50)7月25日/B6判/480円/約300p/全6話を収録
・2回目: 石川フミヤス /リイド社SPコミックスWIDEPockets/初版2007年(H19)10月19日/B6判/500円(本体価格476円)/約430p/当方所有は2014年(H26)10月24日の4刷/全10話を収録
・2回目は通称・コンビニコミックのスタイル(コンビニで販売されているカバーなしのペーパーバックスタイル)。 本題と副題の区別があいまいな印象だが、「闇のくの一 かまり弁天 大岡越前影始末」と題されている。
・1回目(SPコミックス)は、脚本/宮崎惇、2回目(コンビニ本)では、脚本/宮崎惇(協力)、とそれぞれクレジットされている。
②作品概要
・本作は、宮崎の奇想天外なアイデアが生きた娯楽時代劇物の傑作と言えるだろう。 初出は芳文社の「週刊漫画times」で、1974~1975年(昭49~50)に連載されたようだが、詳細な期間については調査中。また、単行本化されていない部分がある可能性も高い。
・宮崎惇(みやざきつとむ)は、『聖マッスル』(作画ふくしま政美)の原作者で知られ、ゴルゴ13の脚本も手がけている。
(2)いくさ餓鬼
・初出は芳文社の「週刊漫画times」。1975年(昭50)年頃の連載であるが、詳細な連載期間は調査中。上記の「かまり弁天」よりは後の連載である。
・単行本化は2007年(平19)のコンビニコミック(リイド社SPコミックスWIDEPockets)での刊行が初めて、と推測される(調査が不十分なため確かではない)。
・書籍タイトルに通巻表記(1~3)はないが、群雄編、雌雄編、武勇編がそれぞれ1~3巻に相当するだろう。武勇編には「最終巻」と記載がある。また、これらのコンビニコミックでは、「戦国サバイバルいくさ餓鬼」と標記されている。上記(1)かまり弁天同様に本題と副題の区別が付きにくい標記である。
・第1刷発行日は、群雄編(1)、雌雄編(2)、武勇編(3)、それぞれ順に、2007年4月22日、同年5月19日、同年6月17日。ハクダイ所有の1巻と2巻は2013年(H25)の2刷発行の物で、表紙に「売れ行き良好アンコール発売」のキャッチコピーがある。
・興味深いのは雑誌初出時とコンビニコミックのクレジット表記の違いである。 雑誌掲載分(連載第24回)を入手したので、雑誌掲載時とコンビニコミックを比較してみた。
*単行本(コンビニコミック)→脚本・さいとう・たかを、作画・石川フミヤス
・雑誌掲載から30年を経ての単行本化であったとすれば、さいとう・たかをファン、そして石川フミヤスファンにとってはビッグニュースであったと想像する。
・この作品は、「さいとう・プロ」作品としては異色の部類に入るのかもしれない。雑誌掲載時の扉、また、単行本表紙に記載されている作品を紹介した文章が作品世界を的確に表現しているので、以下に全文を引用しておく。雑誌掲載24話と単行本とでは、若干表現に違いはあるが、基本的にはほぼ同一の文章である。引用は単行本より。
(3)女占い師魅狐(メッセンジャーミコ)
初出情報の詳細は不明だが、芳文社の「週刊漫画TIMES」に1973年(昭48)頃発表されたようである。脚本としてクレジットされている「葉山伸」の名前から横山光輝の「少年忍者風よ」を想起する方が少なくないかもしれない。妖艶なグラマー女性が主人公のお色気ありの現代物差ミステリー。
◎ゴルゴ13あるいはさいとう・たかを作品、さいとう・プロ作品のちょっとマニアック?な楽しみ方
複数の制作班が存在し、作画担当のチーフが、担当の班(チーム)をまとめるのがさいとう・プロの制作のスタイルのようである。
連載開始が1968年(昭43)という超長期連載作品の「ゴルゴ13」の作画スタッフの変遷を調べるためにはかなり大がかりな調査が必要になってくるだろうが、ハクダイにとっては非常にマニア心をくすぐられる作業であり、個人的に大変興味深い。単行本をシリーズを違えて何冊集めようと、オリジナルの初出雑誌「ビッグコミック」の調査から始める必要があるため、生半可な気持ちでは取りかかれないのだが……。
ちなみに、Wikipediaのゴルゴ13の項目には、これまでの脚本担当者名と、各脚本担当者の手掛けた本数(話数)の記載があある。