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3.石川フミヤス 貸本から雑誌へ―さいとうプロの作画チーフとして

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貸本から雑誌へ―さいとうプロの作画チーフとして。

ここでは、貸本時代のいわゆる青春物と、雑誌に移行後のさいとうプロでの主要な仕事について紹介したい。

1.貸本時代に描かれた石川フミヤスの傑作「青春物」の数々

(1)「青春の息吹」シリーズ~長編「青春日記」全8巻

さいとう・プロより1963年から1964年(頃?)(昭38~39)にわたって発表されたシリーズ。都合15冊が刊行されたようである(調査不十分のため誤りがある可能性あり)。

①海の見える丘 ②チビッコ探偵 ③青春の鼓動 ④灼熱の青春 ⑤青春の素顔 ⑥遥かなる青春 ⑦青春万歳

以上、7冊。全て単巻での刊行。

⑧青春日記
「青春の息吹」シリーズのNo.8は全8巻、そしてページ数1.000p程度の「青春日記」。当時のマンガ出版状況からすれば、かなり長めの作品である。この⑧青春日記シリーズには、 前書きに手書きで著者石川の文章が寄せられているので、全文を引用しておく。

これは、第二次世界大戦後の混乱期に夢多き少年時代を迎え、戦後日本の歩みと共に成長してきた唐橋司朗君の伝記である。この一篇を親友唐橋司朗君に送り敬意を表する。(一部、句読点追記や旧字等の修正あり)

唐橋司朗の友人として、著者自身である「石川文康」も登場し、終戦から間もない、昭和の日本に生きる人々の慎ましい生活が描かれている。罪物、ミステリーという趣はほとんどなく、「庶民の生活の記録」としてのマンガといった印象。当時、ここまでドキュメントタッチな作品はそう多くは存在しなかったと思われる。この作品が忘れ去られるのは、あまりにも残念である。現行のマンガ家によるリメイクがなされれば面白いと思う。

第一部の表紙。味わいのある描き文字タイトル。
第一部の表紙。味わいのある描き文字タイトル。
1ページ目の作者まえがき。
1ページ目の作者まえがき。
第一部の見開き扉ページ。快活な主人公が描かれている。
第一部の見開き扉ページ。快活な主人公が描かれている。
ドキュメントタッチが石川作品らしい導入部。戦後日本の歴史についての記述。
ドキュメントタッチが石川作品らしい導入部。戦後日本の歴史についての記述。
第4部の表紙。 
第4部の表紙。
第5部表紙。タイトル文字のフォントが一部と違う。柿を喰らう少年の瑞々しさが魅力的。
第5部表紙。タイトル文字のフォントが一部と違う。柿を喰らう少年の瑞々しさが魅力的。

(2)「青春無頼帖シリーズ」

 石川フミヤス 東京トップ社  

シリーズが最終的に何集(号)まで続いたかは不明だが、ハクダイ手持ちのシリーズ5作目に6作目の予告が載っているため6作目までは存在した可能性が高い。

シリーズ①~④のタイトルは調査中、⑤嵐の青春、⑥花咲く青春、⑦シリーズ以降の存在については調査中。

(3)「十代シリーズ」

 石川フミヤス /三洋社 

このシリーズも、手元の資料ではシリーズが何作まであったのか確認できていない。 2作目の「黒い花」の表紙には、”テンエイジャー トルース・ストオーリイ”と記載されている。(teenager true story?)

「黒い花」表紙。ハードボイルドな雰囲気。
「黒い花」扉ページ。人物の頭が小さめに描かれている。
「黒い花」扉ページ。人物の頭が小さめに描かれている。
石川作品ではおなじみのキャスト紹介。製作には"三洋社"と記載あり。
石川作品ではおなじみのキャスト紹介。製作には”三洋社”と記載あり。
最終ページ。作者の実直さがうかがえるあとがき。
最終ページ。作者の実直さがうかがえるあとがき。

(4)その他、貸本時代の石川フミヤス

「劇画集団」に関しては「さいとう・たかを」の項で触れているのでそちらを参照していただきたいが、劇画工房の8人のうち劇画集団のメンバーはさいとう・たかをと石川フミヤスの2名のみである。

2.雑誌時代の代表作

単行本化の際、石川フミヤス作品として明確にクレジットされている作品がいくつかある。石川フミヤス名義で雑誌掲載され、単行本化されていない作品も少なからずあると推測される。

(1)かまり弁天

「かまり弁天」の表紙。左が旧版、右が新版。
「かまり弁天」の表紙。左が旧版、右が新版。
「かまり弁天」の単行本表紙。左が旧版、右が新版。
「かまり弁天」の単行本表紙。左が旧版、右が新版。

①単行本化2回と推測している。

・1回目: 石川フミヤス /リイド社SPコミックス版/初版1975年(昭50)7月25日/B6判/480円/約300p/全6話を収録 

・2回目: 石川フミヤス /リイド社SPコミックスWIDEPockets/初版2007年(H19)10月19日/B6判/500円(本体価格476円)/約430p/当方所有は2014年(H26)10月24日の4刷/全10話を収録 

・2回目は通称・コンビニコミックのスタイル(コンビニで販売されているカバーなしのペーパーバックスタイル)。 本題と副題の区別があいまいな印象だが、「闇のくの一 かまり弁天 大岡越前影始末」と題されている。

・1回目(SPコミックス)は、脚本/宮崎惇、2回目(コンビニ本)では、脚本/宮崎惇(協力)、とそれぞれクレジットされている。

②作品概要

・本作は、宮崎の奇想天外なアイデアが生きた娯楽時代劇物の傑作と言えるだろう。 初出は芳文社の「週刊漫画times」で、1974~1975年(昭49~50)に連載されたようだが、詳細な期間については調査中。また、単行本化されていない部分がある可能性も高い。

宮崎惇(みやざきつとむ)は、『聖マッスル』(作画ふくしま政美)の原作者で知られ、ゴルゴ13の脚本も手がけている。

 

(2)いくさ餓鬼

「戦国サバイバルいくさ餓鬼」。左側が1巻、右が2巻に相当する。
「戦国サバイバルいくさ餓鬼」。左側が1巻、右が2巻に相当する。
雑誌掲載時の扉ページ(第24回)。「第24回扉 構成・石川フミヤス」とクレジットあり。
雑誌掲載時の扉ページ(第24回)。「第24回扉 構成・石川フミヤス」とクレジットあり。
「いくさ餓鬼」3巻(最終巻)表紙。
「いくさ餓鬼」3巻(最終巻)表紙。
「戦国サバイバルいくさ餓鬼」全3巻の背表紙。(左より1、2、3)  
「戦国サバイバルいくさ餓鬼」全3巻の背表紙。(左より1、2、3)

・初出は芳文社の「週刊漫画times」。1975年(昭50)年頃の連載であるが、詳細な連載期間は調査中。上記の「かまり弁天」よりは後の連載である。

 ・単行本化は2007年(平19)のコンビニコミック(リイド社SPコミックスWIDEPockets)での刊行が初めて、と推測される(調査が不十分なため確かではない)。

・書籍タイトルに通巻表記(1~3)はないが、群雄編、雌雄編、武勇編がそれぞれ1~3巻に相当するだろう。武勇編には「最終巻」と記載がある。また、これらのコンビニコミックでは、「戦国サバイバルいくさ餓鬼」と標記されている。上記(1)かまり弁天同様に本題と副題の区別が付きにくい標記である。
 

・第1刷発行日は、群雄編(1)、雌雄編(2)、武勇編(3)、それぞれ順に、2007年4月22日、同年5月19日、同年6月17日。ハクダイ所有の1巻と2巻は2013年(H25)の2刷発行の物で、表紙に「売れ行き良好アンコール発売」のキャッチコピーがある。
 

・興味深いのは雑誌初出時とコンビニコミックのクレジット表記の違いである。 雑誌掲載分(連載第24回)を入手したので、雑誌掲載時とコンビニコミックを比較してみた。

*雑誌→脚本・沖吾郎、構成・石川フミヤス
*単行本(コンビニコミック)→脚本・さいとう・たかを、作画・石川フミヤス

・雑誌掲載から30年を経ての単行本化であったとすれば、さいとう・たかをファン、そして石川フミヤスファンにとってはビッグニュースであったと想像する。

・この作品は、「さいとう・プロ」作品としては異色の部類に入るのかもしれない。雑誌掲載時の扉、また、単行本表紙に記載されている作品を紹介した文章が作品世界を的確に表現しているので、以下に全文を引用しておく。雑誌掲載24話と単行本とでは、若干表現に違いはあるが、基本的にはほぼ同一の文章である。引用は単行本より。

応仁の乱の世、うちつづく天変地衣と大飢饉、その中で親を失った餓鬼集団は、生きていくための”いくさ”を続ける。それは、まさに地獄図であった!!

(3)女占い師魅狐(メッセンジャーミコ)

「女占い師魅狐」単行本表紙。
「女占い師魅狐」単行本表紙。
 
「女占い師魅狐」単行本の口絵。
「女占い師魅狐」単行本の口絵。
「女占い師魅狐」単行本のもくじ。
「女占い師魅狐」単行本のもくじ。
 石川フミヤス /リイド社SPコミックス版/初版1975年(昭50)年5月25日/B6判/480円/約310p/全6話を収録 

 初出情報の詳細は不明だが、芳文社の「週刊漫画TIMES」に1973年(昭48)頃発表されたようである。脚本としてクレジットされている「葉山伸」の名前から横山光輝の「少年忍者風よ」を想起する方が少なくないかもしれない。妖艶なグラマー女性が主人公のお色気ありの現代物差ミステリー。

◎ゴルゴ13あるいはさいとう・たかを作品、さいとう・プロ作品のちょっとマニアック?な楽しみ方

基本的に、さいとう・プロ作品には制作スタッフのクレジットが詳細に掲載されている。雑誌掲載、または単行本化に際して制作助手やアシスタントの姓名等を記載することは、格別珍しい事ではないかもしれないが、映画やテレビドラマのように制作スタッフを列記するのは「さいとう・プロ」の「専売」的な印象がある。 そしてこの制作スタッフのクレジットは単行本化の際、基本的には掲載されない。単行本化時は脚本スタッフの名前のみが記載されるのが一般的なようである。

複数の制作班が存在し、作画担当のチーフが、担当の班(チーム)をまとめるのがさいとう・プロの制作のスタイルのようである。
連載開始が1968年(昭43)という超長期連載作品の「ゴルゴ13」の作画スタッフの変遷を調べるためにはかなり大がかりな調査が必要になってくるだろうが、ハクダイにとっては非常にマニア心をくすぐられる作業であり、個人的に大変興味深い。単行本をシリーズを違えて何冊集めようと、オリジナルの初出雑誌「ビッグコミック」の調査から始める必要があるため、生半可な気持ちでは取りかかれないのだが……。

ちなみに、Wikipediaのゴルゴ13の項目には、これまでの脚本担当者名と、各脚本担当者の手掛けた本数(話数)の記載があある。