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3.ハードボイルドとアクションだけでは語り切れない佐藤まさあき

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埋もれるには惜しい多彩な傑作群


「さいとう・たかを」のコミック・マンガの世界における功績については言うまでもないが、そのさいとう・たかをと双璧を為した劇画家といえば、一番に名前が挙がるのが「佐藤まさあき」ではなかろうか?

人気がありながら、青年マンガ雑誌の中で特にメジャーな小学館ビッグコミック系のマンガ雑誌に作品を発表することがほとんどなかった佐藤まさあきではあったが、さいとう・たかをと双璧をなず劇画家として位置づけられた時代が確実に存在したと思う。

☆作品紹介1/暗黒街シリーズ

 佐藤まさあきB6版/わかば書房 

概要暗黒街シリーズ。副題は「黒沼不死人探偵日記」。
1958~59年(昭33~昭34)にかけて発表された、佐藤まさあきの初期シリーズで貸本向けの描き下ろしの単行本である。
当時のマンガの出版状況を考えれば、同じシリーズで5巻まで出版出来るのは珍しいことで、氏の早くからの人気の高さをうかがわせる作品だ。

解説探偵「黒沼不死人」の活躍を描く「アクション物」だが、ハードボイルド的な非情な趣はこの頃はまだ感じられない。今の若い世代から見ると古風で子どもっぽい作風に感じられるかもしれないが、マンガ・劇画の歴史を知る意味でもぜひ読んでもらいたい作品である。
 

ハクダイ所有は復刻版(青林堂ブックオンデマンド)の3、4巻の2冊。判型は新書判。
ハクダイ所有は復刻版(青林堂ブックオンデマンド)の3、4巻の2冊。判型は新書判。

☆作品紹介2/昭和新撰組シリーズ

 佐藤まさあきA5版/佐藤プロ 

概要1962~63年(昭37~昭38)にかけて発表された全8巻のシリーズ。貸本向けの書き下ろしの単行本でA5判。佐藤プロよりの刊行。幕末物の「新撰組」から題材を得た作品だ。

「昭和新撰組」第一部表紙。佐藤まさあきの描くキャラクターの中ではやや軟派な印象をもった。
「昭和新撰組」第一部表紙。佐藤まさあきの描くキャラクターの中ではやや軟派な印象をもった。
「昭和新撰組」第一部の扉ページ。「拳銃アクション大作」といえば良いだろうか。
「昭和新撰組」第一部の扉ページ。「拳銃アクション大作」といえば良いだろうか。
「昭和新撰組」第一部もくじページ。
「昭和新撰組」第一部もくじページ。
72pにあらわれる、昭和新撰組第一部の「はじめに」。パロディだと言いつつも、「全情熱をぶっつける」と熱く語っている。
72pにあらわれる、昭和新撰組第一部の「はじめに」。パロディだと言いつつも、「全情熱をぶっつける」と熱く語っている。

☆作品紹介3/任侠シリーズ

 佐藤まさあき128p/佐藤プロ/A5版/1963~1964年/単数 

概要1963~1964年(昭38~昭39)にかけて発表された。「やくざ」シリーズとして、次の6話が制作されたようだ。貸本向けの書き下ろしの単行本でA5版。「佐藤まさあきハードボイルドマガジン」のシリーズとして佐藤プロより刊行された。

●各タイトル

 ※全て単行本スタイル/128p程度

・やくざ第一話「三下」
・やくざ第二話「一宿一飯」
・やくざ第三話「関東遊侠伝」
・やくざ第四話「続関東遊侠伝」
・やくざ第五話「日本無法街」
・やくざ第六話「じゃんじゃん横丁」(横町か?)

解説管理人ハクダイは2作品のみしか読めていないため、詳述はできない。
佐藤まさあき本人による、綿密な取材によって制作されたシリーズであり、佐藤氏自身も「映画の影響ではない」「映画をパクったと誤解されるのは心外」と、考えていたようである。

●このシリーズに関しての著者・佐藤氏のコメント

「『日本無法街』佐藤まさあき劇画叢書11」
 佐藤まさあき新書版 

・佐藤プロ発行行年月の記載はないが、作品リスト等から1966~1967年(昭41~昭42)頃の刊行と推測する。
「日本無法街」と「墓標」の2作品を収録。「日本無法街」は、新書判として刊行する際に、リメイクせずにA5判貸本の物をそのまま流用したようである(若干の描き直し~加筆修正を行っているようだ)。「墓標」は、リメイク作品であると佐藤氏があとがきで書いている。作品リストによると、「日本無法街」は1963年(昭38)、「墓標」は1961年(昭36)の作品である。また、引用文中、6年前とあるが、これは佐藤氏の記憶違いである可能性も否定できない。

この作品は、六年前に描いた作品である。”日本無法街”は「三下」、「一宿一飯」、「関東遊侠伝」、「じゃんじゃん横丁」などと同じ一連のやくざの世界をかいた、任侠シリーズである。私が、劇画界に首をつっ込んでかれこれ十四年になろうとしている。その間、私はマンネリズムという恐ろしい壁に何度もぶつかり乍ら苦しんできた。熱血物でこの世界にデビューした私は、その後江戸川乱歩に魅せられ、謎と怪奇の世界に没頭し、そこからは本格推理のトリック探しに狂奔し、やがて、スピード感のあるアクションに移行し、そして、そのアクションからハードボイルドにたどりついた。 だがそれさえも、マンネリズムという大きな壁にぶつかり、それを打開するために考えついたのが、それぞれのモチーフを徹底的につきつめる・・・事だった。それには、これまで一般人が知らない世界を調査してみようと思いたち、麻薬と、やくざに関する資料を必死で集め始めた。 そして出来たのが「麻薬シリーズ」であり、この「やくざシリーズ」であった。当時はまだ、やくざ映画といわれるものが皆無の時代で、背景の資料その他には大変苦労した。 この作品は、戦後、新橋でおこった、ある市街戦をヒントに描き上げたものである。

「日本無法街」(A5判)の表紙。やくざシリーズの第五話。
「日本無法街」(A5判)の表紙。やくざシリーズの第五話。
「日本無法街」(A5判)扉ページ。個人的には、この頃の絵柄が好きである。
「日本無法街」(A5判)扉ページ。個人的には、この頃の絵柄が好きである。
新書判「日本無法街」の表紙。この絵は新書判用に新たに描かれた物と思われる。
新書判「日本無法街」の表紙。この絵は新書判用に新たに描かれた物と思われる。
シリーズ第6作目となる「じゃんじゃん横町」の表紙。大阪が舞台となっている。
シリーズ第6作目となる「じゃんじゃん横町」の表紙。大阪が舞台となっている。
じゃんじゃん横町の扉ぺージ。これは、佐藤氏のタッチではないような気がする。
じゃんじゃん横町の扉ぺージ。これは、佐藤氏のタッチではないような気がする。
「じゃんじゃん横町」の作品冒頭。作品制作にあたり資料収集を丁寧に行っているのがうかがえる。
「じゃんじゃん横町」の作品冒頭。作品制作にあたり資料収集を丁寧に行っているのがうかがえる。
「じゃんじゃん横丁」あとがき。佐藤氏の制作に対する熱意が伝わってくる。
「じゃんじゃん横丁」あとがき。佐藤氏の制作に対する熱意が伝わってくる。
●また、日本無頼帖シリーズとして次の8作も手がけている。

 東考社ホームラン文庫/A5版/1965~1966年(昭40~昭41) 

・日本無頼帖 第一話 日本無頼帖
・日本無頼帖 第二話 悪名一代
・日本無頼帖 第三話 流れ者仁義
・日本無頼帖 第四話 半丁無宿
・日本無頼帖 第五話 度胸一代
・日本無頼帖 第六話 あばれ街道
・日本無頼帖 第七話 真吾暗殺剣
・日本無頼帖 第八話 銀蛇一閃

日本無頼帖第二話「悪名一代」の表紙
日本無頼帖第二話「悪名一代」の表紙
日本無頼帖第二話「悪名一代」より。佐藤まさあき作品といえば拳銃アクションというイメージが強い。殺陣シーンは新鮮な印象だ。
日本無頼帖第二話「悪名一代」より。佐藤まさあき作品といえば拳銃アクションというイメージが強い。殺陣シーンは新鮮な印象だ。
日本無頼帖第二話「悪名一代」より。殺陣シーンの方が拳銃アクションより、佐藤氏の絵には合っている気もする。
日本無頼帖第二話「悪名一代」より。殺陣シーンの方が拳銃アクションより、佐藤氏の絵には合っている気もする。

☆作品紹介4/リアル犯罪物~社会派物

概要上記作品紹介3の任侠シリーズの引用にあるように、「麻薬」シリーズとして、佐藤まさあきが苦心して作り上げたシリーズ。
ハクダイの調査不足で、このシリーズの全体像は不明である。制作時点で明確なシリーズ化という意図があったのかどうかも定かでない。
1960年(昭35)の「香港麻薬ルート・ある囮捜査」のあとがきで、佐藤氏は次のように書いている。

今までのアクション物とはガラリと趣向をかえて、地味に、そしてリアルにと、いろいろ苦心して描きました。私としては、新しい傾向の作品ですので、読者の方々にどのように受けいれられたか、すこし不安でもあります。

また、「社会派シリーズ」として佐藤プロより約5冊を刊行している。「遭難」の巻末広告によれば、次の5冊を刊行予定としていたようだ。(No1,2,3の3冊は現物確認済、No.4は著作リストで確認できる。No.5は著作リストで確認できず。)

●社会派シリーズ
No.1 誘拐(ゆうかい)、No.2 脱獄(だつごく)、No.3 遭難(そうなん) No.4 狂人(きちがい、とふり仮名)、No.5 麻薬(麻薬)

著作リストによればNo.1~3は、1964年(昭39)、No.4は1965年(昭40)の作品。また、No.1の誘拐は、佐藤まさあき劇画叢書(新書判)シリーズ向けにリメイクされているようです。また、下記の作品紹介5/山岳物の『遭難』とは、社会派シリーズとして制作されたモノを佐藤氏が山岳劇画と勘違いしている可能性があります。確かに社会派物、山岳物、どちらにも分類出来る作品かとは思います。

☆作品紹介5/山岳物

概要ここ数年来、「山ガール」なる言葉が定着してきたが、「登山や山岳を漫画のテーマに初めて用いたのは佐藤まさあきである」とする説がある。山ガールの定義、登山自体のバリエーションの広さを考えると、諸説あるのかもしれない。

●各タイトル
※現状、調査不足で、このシリーズ(山岳物)の全容は掴みきれていないが、おおよそ次のようになる。
 佐藤まさあき単行本/佐藤プロ/A5版/128p程度/但し※のみ短編→1964年/作品のページ数は不明/短編誌モーゼル96/佐藤プロ/A5版/何集かは不明 

1.「遭難」/1964年(昭39)
2.「鬼のおどり場」 ※/1964年(昭39)
3.青春山岳シリーズ①「雪山賛歌」/1965年(昭40)
4.青春山岳シリーズ②「白銀のかなたに」/1966年(昭41)
5.青春山岳シリーズ③「大岩壁」/1966年(昭41)
6.青春山岳シリーズ④「山よこんにちわ」/1966年(昭41)
●このシリーズに関しての著者佐藤まさあきのコメント

※「青春山岳シリーズ①『雪山賛歌』」の「はじめに」として書かれている著者の文章を全文引用しておく。

私は、これまでに長編「遭難」と、短編「鬼のおどり場」と、二つの山岳劇画をものにしてきた。山岳物……というのは、劇画の世界では初めてのジャンルであり今までにほとんど参考にすべき作品がないだけに苦労をした。私は前二作を以って山岳物をかくことをやめるつもりで、それまで集めてきた資料のほとんどを捨ててしまった。それから一年以上もたって、ある動機から私は再び、この山の物語にお取り組んでみたいという衝動にかられ、山岳青春シリーズと云う一連の作品をかいてみようと思い立つに至った。(以下略)

青春山岳シリーズ①「雪山賛歌」の表紙。女性は佐藤氏の手によるものではない可能性が高い。
青春山岳シリーズ①「雪山賛歌」の表紙。女性は佐藤氏の手によるものではない可能性が高い。
「雪山賛歌」の扉ページ。右下にサインがある。1965年(昭和40)、丁度半世紀前である。
「雪山賛歌」の扉ページ。右下にサインがある。1965年(昭和40)、丁度半世紀前である。
「゜雪山賛歌」の「はじめに」部分。作品作りのために資料収集を熱心に行っていた事がうかがえる。
「゜雪山賛歌」の「はじめに」部分。作品作りのために資料収集を熱心に行っていた事がうかがえる。
青春山岳シリーズ②「白銀のかなたに」表紙。佐藤氏本人もスキーは上手だったのだろうか。躍動感ある絵である。
青春山岳シリーズ②「白銀のかなたに」表紙。佐藤氏本人もスキーは上手だったのだろうか。躍動感ある絵である。
「白銀のかなたに」扉ページ。
「白銀のかなたに」扉ページ。

☆作品紹介6/日本秘密捜査官R-M1シリーズ

 佐藤まさあき/佐藤プロ/A5判 

概要激増する国際犯罪に対処するために、警視庁が秘密裡に設置した組織「秘密操作班R(アール)」の秘密捜査官第1号の男、「R-M1」の活躍を描く、スパイアクションもの。
 アウトロー、アウトサイダーを描く作品が多い佐藤まさあきとしては、秘密捜査官とはいえ、「体制側」の人間を主人公に据えているという点で異色の部類に入るかと思う。
 海外が主要舞台となっており、当時としては、本格的な国際スパイアクションものとして、評判が良かったと思われる。

●作品タイトル 

「日本秘密捜査官 R-M1」シリーズ

1.腐ったダイヤモンド/1964年(昭39)
2.香港秘密作戦/1964年(昭39)
3.巨竜島に潜入せよ/1964年(昭39)
4.暗殺計画007/1965年(昭40)
5.スパイに墓はない/1965年(昭40)
6.死にざまを見ろ/1965年(昭40)
7.戦火の中のR-M1/1965年(昭40)
8.太陽の帝国/1965年(昭40)
9.泥まみれの指令/1966年(昭41)
10.R-M1最大の危機/1966年(昭41)
R-M1シリーズの1冊目「腐ったダイヤモンド」の表紙。
「腐ったダイヤモンド」の扉ページ。
「腐ったダイヤモンド」の扉ページ。
R-M1シリーズの8冊目「太陽の帝国」の表紙。
R-M1シリーズの10冊目「最大の危機」の表紙。
オリジナルのA5判では5冊目となる「スパイに墓はない」の新書判でのリメイクになる。
新書判「スパイに墓はない」のカバー裏より。男前である。
新書判「スパイに墓はない」のカバー裏より。男前である。