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2.松本正彦 書店で入手可能な作品たち

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松本正彦を知る!ブックガイド

松本正彦の作品は現在、比較的読みやすい状況にある。
amazonのブックレビューなどを読めば松本正彦の作品内容について多少想像することもできるだろうが、いかんせん散漫で断片的な印象があるため、僭越ながら、ハクダイが松本正彦作品をブックガイド風にまとめてみた。参考にしていただければ幸いである。

☆ 作品紹介1/隣室の男―松本正彦「駒画」作品集

 松本正彦㈱小学館クリエイティブ/2009年(平21)6月/A5判/639p/3.619円(税なし) 


(1)貴重な資料として
貸本マンガ、劇画創成期、マンガの歴史……、これらのキーワードに少しでも引っかかった方ならこの本は絶対に読んでおくべき1冊である。

(2)収録作品の概要
最初期の仕事は含まれないが、昭和30年代の貸本時代に描かれた作品を中心に全18作品が収録されている。

・1956~1960年(昭31~35)に制作された貸本時代の16作品:表題作でもある「隣室の男」1956年(昭31)、「天狗岩の怪」「どくろに頼む」など。

・雑誌へ活動を移してからの作品としては、「劇画バカたち!!第一話」1979年(昭54)、「どこかへ」1973年(昭48)の2作品を収録。

(3)回想録
生前の松本正彦氏インタビュー、及び松本氏本人による「貸本マンガ家」と題された回想録が収録されている。インタビューの聞き手は、松本正彦の長男の松本知彦。また、回想録は『貸本マンガ史研究』に発表された物の再録である。

(4)証言
同業者・関係者等のインタビューや文章を収録。文章は再録も含む。証言者としては、さいとう・たかを宮崎駿水島新司池上遼一つげ義春水木しげる等、全19名の著名マンガ家等が名を連ねている。

(5)充実の石川フミヤスインタビュー
国分寺と劇画工房」と題されたもので、全9p。聞き手は松本知彦氏。昭和30年代前半の劇画創成期を知る上で資料性の高い内容となっている。

(6)駒画についての論考
「松本正彦の仕事」として、「駒画」の提唱とその実践について3人が論考を寄せている。寄稿者は、辰巳ヨシヒロ浅川満寛ちだ・きよしの3氏。

(7)駒画の革新性
中条省平による解説「単行本での表現の革新-駒画」。この解説を読むと、「駒画」の革新性がよく分かる。

(8)松本正彦略年譜・松本正彦作品リスト
作品リストは、原則「貸本マンガ時代」のみに限定され雑誌時代以降は含まないが、ほぼ全ての作品の扉部分の図版が小さいながらも掲載され、一部の作品については作品解題が付されている点など、読み物としても資料としてもかなり充実した内容となっている。

(9)単行本の書映
巻頭にカラー口絵として、単行本の書映などが掲載されている。

☆作品紹介2/たばこ屋の娘―松本正彦短編集

 松本正彦青林工藝舎/2009年(平21)9月/256p/B6版/1.300円(税なし) 

(1)収録作品の概要
1972~1974年(昭47~49)に制作された11作品を収録。初出掲載雑誌は、「土曜漫画」、「リイドコミック」など。

(2)作品内容
市井に生きる無名の人々の生活を、愛情込めて確かな視線で描いた叙情作品群は松本正彦にしか出せない空気感があり、完成度が高い。

(3)解説
貸本以降の松本正彦作品と『土曜漫画』」と題してライターの大西祥平氏が寄稿。雑誌『土曜漫画』についての情報は数少ない状況だけに、『土曜漫画』関連の図版も多く掲載された本解説は資料性が高い。

(4)著者インタビューの収録
「あとがきにかえて」と題して、著者インタビューが収録されている。聞き手は松本正彦の長男、松本知彦。ひよこ書房編集部が再構成を行っている。

(5)ハクダイの個人的見解

滝田ゆう、東陽片岡、山松ゆうきち、これら3人の絵を足して3で割ったような画風だろうか?ストーリーも、あながち違っていないような気もする。

☆作品紹介3/劇画バカたち!!

 松本正彦/青林工藝舎/2009年(平21)4月/328p/B6版/1.500円(税なし) 

無題

 (1)収録作品の概要
1979年(昭54)から1984年(昭59)にかけて、小学館『ビッグコミック増刊』に掲載された全11回(話)分を収録。最終話は『別冊ビッグコミック ゴルゴ13シリーズ』に掲載。以前にも、数話分についてはインディーズ的に復刻刊行されているが、全話収録はこの単行本が初である。

(2)作品内容
1955年頃から1957年頃まで(昭30~32)を時代背景として、大阪日の丸文庫に拠った「新世代マンガ家」たちの青春群像劇である。セミ・ドキュメントタッチで描かれているが、人物設定や時代考証等細かい事を言えば、「ノンフィクション的フィクション」として考えるのが適切であろう。

(3)主要登場人物
本作品にメインで登場するのは、「日の丸文庫」に拠った若きマンガ家たちの「代表格」の3人のマンガ家である。その3人は、さいとう・たかを辰巳ヨシヒロ松本正彦の事である。

(4)作品成立の背景
上記の3.主要登場人物の3人がメインの作品ではあるが、編集サイドの「さいとう・たかを」一代記のような物を、という「要請」が存在したようである。辰巳ヨシヒロの「劇画漂流」とあわせて読めば、貸本マンガや劇画の発祥について多くを学ぶことができる。辰巳氏の「劇画漂流」同様、日本マンガ史研究上、重要な作品である。

(5)さいとう・たかを氏インタビュー
松本氏のこと」と題された、さいとう・たかを氏のインタビューが巻末に収録されている。6pにわたるこのインタビューを読むと、マンガ制作に対する基本的な考えが、さいとう氏と松本氏とでは大きく異なっているのがよくわかる。

(6)作品解題
斧田小(浅川満寛氏の別名義)氏が「作品解題」の中で、この作品の時代背景や成立過程について詳述している。

☆作品紹介4/パンダラブー

 松本正彦青林工藝舎/2002年7月/240p/A5版/1,400円(税なし) 

(1)収録作品の概要
ひばり書房より1973年(昭48)に発行された新書版の同名単行本の復刻版である。2002年に新たに描き下ろされたエピソードも収録されている。

(2)作品内容
時代を超越したユーモアセンスと破壊的なギャグセンスに満ちたギャグマンガ脱力系と評される事が多いが、現代アート的な捉えどころのなさ~あるいは普遍性をも感じさせる。

(3)見どころ
ネクタイを締めたパンダのような謎の生物がうろつき回り珍騒動を繰り広げる。「オバケのQ太郎」風な異性物日常ギャグマンガの系譜に連なる作品と位置づけることは可能だが、その自由度、アナーキーさは突き抜けている。

(4)あとがきと解説
松本正彦氏による「あとがき」、大西祥平(ひよこ書房代表)による「解説」により、作品の面白さの秘密に得心が行く。

(5)著者インタビュー
巻末特集である松本正彦氏へのロングインタビューは、デビュー前の頃から晩年の切り絵作家としての活動まで、長期間にわたっており、松本正彦の経歴を知る上で、貴重な資料ともいえる。また、図版収録と用語解説の注記も充実している。

☆電子書籍 ebookjapanで読める作品たち

電子書籍 ebookjapanで松本正彦作品を何冊か購入し、拝読した。雑文だが、参考になれば幸いである。

 ①サボテンくん

・1954年(昭29)に日の丸文庫からB6判単行本として発売されて大ヒットとなった作品。上記で紹介させて頂いた「作品集・隣室の男」に中条省平氏が寄せた文章が、この作品の革新性について詳述しているので、特に、ここに書くような事はほとんどないが、ハクダイなりに感想を書かせていただくとする。

・中条は文中、松本のローアングルの構図について丁寧に論じているが、コマを横向きにしてみたり(p104)、立体映画だと観客に語らせる、柔道の試合中の投げ技シーンでコマから飛び出してくるような描写にも高い実験性を感じる。

・ライバル関係にある柔道の強豪校である、城北中学と城南中学。城北の荒山あば吉と、城南の矢野正一の二人のライバルの勝負の行方がストーリーの主軸だが、城南へ転校してくるサボテンくん、城北中OBの空手の使い手「天狗」、荒山の妹である花売りの少女など、脇役も魅力があり、一気に読ませる。サボテンくんの登場が、まったくもって中途半端(私見だが)なので、タイトルのサボテンくんは、売れそうだ(?)という理由で付けられたものかもしれない。

・古いマンガを読むことは、意外な発見が多い。1955年(昭30)頃の風俗を知るには、恰好の資料となっている。サボテンくんは、父親が病気で働けないので、家計を助ける必要があり、柔道部へ入る時間的余裕がない。サボテンくんは、道端で古本を売る、という商売(アルバイトというより小商いという言葉がピッタリかもしれない)をしており、矢野は、その手伝いを申し出るのだった。

・荒山の妹が日中、街頭で花売りをしていて、売り上げを街の不良青年に奪われそうになって、矢野君が柔道の投げ技で助ける。この妹と矢野がちょっとしたロマンス的な雰囲気になるが、程良くロマンスを導入するテクニックも人気作となった一因かもしれない。

・中条省平も書いているが、確かに「イガグリくん/福井英一」の影響がありそうだ。空手対柔道という図式を読者は素直に納得できていたのだろうか?。柔道の試合のルールはどうなっていたのだろう?というのは野暮な突っ込みだろうか。

 ②以降、順次更新予定です。(2015年4月)