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5.ハクダイの蔵書より-松本正彦作品紹介その2

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管理人ハクダイの蔵書より/松本正彦作品の紹介(つづき)

☆作品紹介6/地獄のピエロ

 松本正彦120p影別冊/日の丸文庫/A5判/Ⅳ・61とサインあり/奥付に1961年6月15日と記載あり/「明日帰る俺の特ダネ」(沼田清志/37p)を収録 

あらすじ鋼鉄錠(ハガネ・ジョー)が活躍するシリーズ。戸川法律事務所の所長が殺され、その所員・池内が犯人として逮捕される。兄の無実を晴らして欲しいと鋼鉄に依頼してくる美貌の由美子。鋼鉄は、警察のデカ長と協力しながら、真犯人の暗黒街のボス・大田黒を追い詰めていく。

 
「地獄のピエロ」扉ページ。松本作品のカラーページの中ではビビッドな色遣いの印象がある。
「地獄のピエロ」扉ページ。松本作品のカラーページの中ではビビッドな色遣いの印象がある。

電話での会話のシーン。
電話での会話のシーン。
ドクロの仮面を付けた男の逃走、そして銃撃。アングル変化が目まぐるしいコマ割りでテンポ良く読ませる。
ドクロの仮面を付けた男の逃走、そして銃撃。アングル変化が目まぐるしいコマ割りでテンポ良く読ませる。

解説仮装パーティにピエロに扮装して乗り込んだ鋼鉄の「すり替えトリック」が見どころの作品。
近年のマンガと比較すれば、斬新さはさほど感じられないかもしれないが、当時の貸本マンガとしては構成の巧みさでずば抜けている。皮肉にも、破綻のない地に足の着いた展開だからこそ派手さに欠け、読者人気も地味であったといえるのかもしれない。

 

☆作品紹介7/あとは俺が

 松本正彦/98p/新・劇画ヒットシリーズ2松本正彦集/ホープ書房/A5判 /劇画ファスト・プロ名義/ V・61とサインあり 

あらすじ私立探偵・鋼鉄錠(ハガネ・ジョー)が活躍するシリーズ。保険会社の調査部長が、映画館で上映映画の銃声にあわせて射殺される。殺された調査部長は港湾の荷役関係の利益をめぐるトラブルに巻き込まれたようである……。事件の真相を探って行くハガネの推理は正しいのか……?

「あとは俺が」扉ページ。「劇画ファスト・プロ」のマークあり。
「あとは俺が」扉ページ。「劇画ファスト・プロ」のマークあり。
見返しページ。下の写真は松本正彦氏。
見返しページ。下の写真は松本正彦氏。
劇中にたびたび登場するコップや湯飲み茶碗などの小道具も松本作品の特徴である。
劇中にたびたび登場するコップや湯飲み茶碗などの小道具も松本作品の特徴である。
松本作品の中ではあまり見かけない「乱闘」シーン。
松本作品の中ではあまり見かけない「乱闘」シーン。
映画館での刺殺シーン。スクリーン中のシーンとシンクロさせている。
映画館での刺殺シーン。スクリーン中のシーンとシンクロさせている。
情報屋に接触するハガネ。
情報屋に接触するハガネ。

解説殺人事件そのものにリアリティを持たせようと、設定に腐心しているように思われる。マンガというより本格的なミステリー小説を読んでいるような錯覚を起こさせるが、マンガというメディアでは、読み手のリテラシーがまだついて来ていなかった時期かもしれない。
「悪魔の心」の故・出崎統氏(アニメーション監督・演出家)の60pの作品が併録されている、なんとも”豪華”な1冊となっている。作品最終コマに「IN CHCHIBU YAMAOKU ’62 MAY 4TH OSAMU-DEZAKI」とサインあり。

 

☆作品紹介8/狂った番犬

 松本正彦/7人の刑事2/ホープ書房/A5判/Ⅰ・62とサインあり 

あらすじ麻薬取引の匂いを嗅ぎ付けた刑事・滝川は、バイニン(取引人)を殺し、麻薬を奪う。滝川の持つ麻薬を奪還しようと、組織が動き出すが……。

拳銃を片手に倒れている男と、それを見下ろす男。2人の関係は?
拳銃を片手に倒れている男と、それを見下ろす男。2人の関係は?
バーのカウンターでの出来事。バーテンダーと2人の客。怪しいのは……?
バーのカウンターでの出来事。バーテンダーと2人の客。怪しいのは……?
正当防衛を主張する刑事であったが、その真相は……?
正当防衛を主張する刑事であったが、その真相は……?
法の番人なら拍手喝采となるシーンであるが……。
法の番人なら拍手喝采となるシーンであるが……。

解説悪徳刑事物。番犬とは刑事のこと。あまりにも見事な「抜けのない構成」で、こんな刑事が本当にいたら嫌だなあ……と思ってしまうほど後味が悪い印象の作品である。近年話題の「イヤミス」(イヤな気分になるミステリー)の部類ともいえるだろうか。私立探偵の出番も、派手な撃ち合いもない作品だけに、よりリアリティを感じさせ、著者のシニカルな視点が興味深い佳品となっている。

 

☆作品紹介9/毛

 松本正彦/30p/影67集/日の丸文庫/A5判/ファスト・プロ名義/Ⅰ・62とサインあり/奥付あり1962年5月1号 

あらすじ古道具屋で見つけた外国製の古い小箱に入っていた髪の毛は不思議な力を持っていた。その髪の毛を使うことで写真に写った人物に危害を加えることが可能だと知った男は競馬のイカサマでボロ儲けするのだが……。

「毛」扉ページ。
「毛」扉ページ。

解説古典的な怪奇現象物に分類されると思われるが、内容はいまいち切れが悪い印象を持ってしまった。どうも松本氏と題材との相性が良くなかったのではないだろうか。同じ題材が桜井昌一の手にかかるともっと味のある題材になっていたかもしれない。

 

☆作品紹介10/サボテン君

 松本正彦/144p/オッス別冊/日の丸文庫/A5判/ Ⅸ・62とサインあり 

概要これには先行する作品があって、自作リメイクの可能性がある。中学生のサボテン君が、仲間のトッチャン(大親友)、チャメ子(おてんば)、あば吉(あばれん坊)たちと繰り広げる笑いの数々。担任の先生はアワテ者の泡手先生。古き良き時代の子どもマンガという印象である。

「サボテン君」表紙。
「サボテン君」表紙。
扉ページ。板塀をバックに、サボテンたち2人。
扉ページ。板塀をバックに、サボテンたち2人。
登場人物紹介。
登場人物紹介。
新任の先生は、あわてん坊の泡手先生。子犬が怖いらしい。
新任の先生は、あわてん坊の泡手先生。子犬が怖いらしい。
「そうじはつらい」の巻。
「そうじはつらい」の巻。
「たんじょう日」の巻。
「たんじょう日」の巻。

解説表紙には、「爆笑痛快漫画」とタイトル文字下に添えられている。個人的に好きな雰囲気の作品である。
あえて乱暴に言い切ってしまえば、
・いなかっぺ大将(川崎のぼる)を、のんびりさせた感じ……。
・福井英一的な作品世界から、熱血を抜いて、お笑いソースをかけて……。
・ナガシマくん(わちさんぺい)を少しスピードアップしてワイルドに……。少しはイメージが伝わっただろうか。学園物ジャンルとしてとらえれば、日本のマンガ史においても注目すべき作品のひとつかもしれない。松本正彦らしい、くすぐりが随所に見られる。

 

☆作品紹介11/放たれた野獣

 松本正彦/ 約50p/ ショッキング ブックス①/ホープ書房/A5判 
※ファスト・プロ名義 変則的オムニバス作品。篠原とおる、出崎統の両氏含めて3人でのオムニバス。

 あらすじ古美術店に勤めていた「俺・立田文五郎」は、店の金庫の金を盗んだかどで逮捕された。が、俺は盗んでいない……俺は、店の娘亜矢子さんが好きだったのに……。そして、逃亡した俺は殺人事件に巻き込まれてしまう……店の金庫の金を盗んだ真犯人は?

「放たれた野獣」表紙。松本氏のデザイン力の高さを感じさせる。
「放たれた野獣」表紙。松本氏のデザイン力の高さを感じさせる。
単行本見開きページ。松本氏の顔写真は他の作品でもたびたび見かける。お顔を表に出すのは割りとお好きだったのだろうか。
単行本見開きページ。松本氏の顔写真は他の作品でもたびたび見かける。お顔を表に出すのは割りとお好きだったのだろうか。
「放たれた野獣」扉ページ。
「放たれた野獣」扉ページ。
汽車の脱線シーン。
汽車の脱線シーン。
競作の篠原とおる作品の開始ページ。右側ページが松本氏、篠原氏どちらの絵なのか不明である。
競作の篠原とおる作品の開始ページ。右側ページが松本氏、篠原氏どちらの絵なのか不明である。
逃げる者、追う者。セリフがないまま一気に進行していくスタイルは松本作品の特徴のひとつである。
逃げる者、追う者。セリフがないまま一気に進行していくスタイルは松本作品の特徴のひとつである。

解説珍しい趣向の短編アンソロジー。鉄道事故のどさくさに紛れ逃亡した3人の脱獄囚の、それぞれの顛末を3人の作家が競作している。冒頭の鉄道事故~脱獄のシーン(7p)と犯人Cの逃亡を松本氏が描いている。犯人Aは篠原とおる、Bは出崎統の両氏が執筆と、超豪華な1冊になっている。
意外な人物の事件への関与が結末で明らかになるあたりが松本作品らしいが、3作家競作の面白さと言う点では個人的には疑問が残る。コラボーレーションだからこそ可能な発想をもっと見たかったように思う。

 

◎掲載誌の他の作品について

(1)『狂った番犬/7人の刑事2』併録作品
「ある恋の物語」豪たもつ(30p)/「あほうねずみ」あがさこうじ(30p)/「やくざ志願」つがわしん一(50p)/表紙・扉・目次:構成都島京弥