タグ別アーカイブ: featured

K.元美津のデビュー作「彼奴を逃がすな」セントラル出版

K.元美津のデビュー作「彼奴を逃がすな」セントラル出版

 2017.10.28(土)昭和漫画館青虫の蔵書棚に発見。青虫を何度も訪れていたのですが、今まで完全に見落としていました。自分の迂闊さに腹が立ちますが(苦笑)、まあ仕方ない。遅れたけれど遭遇出来て良しとしましょう。

●ストーリー 

沖進(おき すすむ)は、先の大戦~戦争で死んだとされる兄の事ばかりを考えている。兄は、やはり戦死して、この世にはもう居ないのだろうか?果たして兄は生きていた。が、家族を失ったと思った兄は自暴自棄となり、今はギャング団の一員として暗黒街に生きていた。

●基礎情報

 このデビュー作については、当方は、これまで多くの情報を持ち合わせていなかった。まず、題名・タイトルの読み方。「きゃつをにがすな」、「あいつをにがすな」、「きゃつをのがすな」、漢字の読み方が幾通りかあるのですが、「きゃつをにがすな」である事が分かりました。表紙は漢字標記のみですがトビラには、「きゃつをにがすな」とフリガナがあります。

 次に作者(著者)名のクレジット。表紙及び奥付での著者名義は「本水かつよ」(もとみずかつよ・本名:本水克世)。トビラ部分には「K  元美津」と記載。推測だが、作者としては「K元美津」名義を使用したかったのだが、「売れないだろう」という編集(出版)側の意向が存在したのかもしません。「かつよ」と平仮名標記にしているあたりにも、「読者への配慮」を感じさせます。

 表紙絵について。これは、作者であるK氏本人の絵では無いように思います。作者以外の方が表紙を手掛けるのは、この当時は一般的だったようです(とハクダイは理解しています)。

Kmotonizu(debuet-kyatu)title-1024

表紙. ハクダイ的には「悪くない」表紙かと思います。書名部の色使い、アクションものらしい、構図~構成、映画のポスター発表のようです。ラフに絞めたネクタイもカッコいいです。「本水かつよ」という字面は、画数も少ないのですが、とっつきにくい印象を受けます(ハクダイ的には)。

Kmotonizu(debuet-kyatu)tonira-1024  Kmotonizu(debuet-kyatu)okuzuke-1024

扉(トビラ)と奥付 左が扉部分です。「K」「元」「美」「津」を色違いのボード板に見立てた、作者名クレジットがシャレています。劇画工房同人では、松本正彦氏の作者名クレジットが最も「図案風」であったという見方があるように理解していますが、デビュー作で、このような作者名標記をするあたりにK氏のデザインセンスの良さを感じます。右は巻末のいわゆる奥付ページです。発行年月日の記載は無で、著者名は「本水かつよ・名義」とあります。二人の男たちのシルエットと、ローマ字によるサインはK氏の手によるものかと推測します。

Kmotonizu(debuet-kyatu)P2-3-1024   Kmotonizu(debuet-kyatu)P4-5-1024

巻頭のカラーページ どこにでもある生活風景、日常生活を、普通に、当たり前に描写していて、特筆すべき点は無いと感じる方が多いかと思います。ですが、この生活感は、同時代の雑誌掲載の連載漫画では味わえないモノであるように思います。昭和30年代初頭の日本の風景と考えるとなかなかに興味深いです。模型飛行機を飛ばすシーンが生き生きとしています。

Kmotonizu(debuet-kyatu)P6-7-1024   Kmotonizu(debuet-kyatu)P8-9-1024

巻頭のカラーページ(つづき) 左の戦闘機シーンは絵物語調でも、旧来の児童漫画のタッチでも無く、リアルは漫画を志向した、劇画工房同人の特徴が明白に出ていると思います。右の酒場シーンも興味深いです。

Kmotonizu(debuet-kyatu)P16-17-1024

悪役のギャングたち 児童漫画からの脱却を図ろうと腐心しているように感じるのですがいかがなものでしょうか?「悪役」をいかに表現するか?これも、リアルさを追求する意味で大きな課題であったかと思います。

Kmotonizu(debuet-kyatu)P66-67-1024

 

綺麗な女性 悪役同様に、大人の女性をどう表現するか?これも大きな関心事であったでしょう。K氏は、少女向け、女性向けの作品を手掛けた事はほぼ無かったかと推測しますが、劇画工房同人の中では、最もその素養があった作家だったかもしれません。

2017.11.15記す