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4.「紙一重」の強烈な個性、桜井昌一のマンガを読むその2

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管理人ハクダイの蔵書より-桜井マンガに迫る(つづき)

☆作品紹介6/鬼

この作品にはリメイク版が存在し、ほぼ同一のストーリーの作品が絵柄を変えて2回制作されている。また、都合3回以上制作された可能性も否定できない。

・1回目(摩天楼版)
 桜井昌一32p/雑誌形式/摩天楼 第10集 /兎月書房/A5判/1960年(昭35)/150円 

・2回目(怪奇マガジン版)
 桜井昌一36p/雑誌形式/怪奇マガジン創刊号/東考社/A5判/1965年(昭40)頃 

 ①鬼/摩天楼版

摩天楼版「鬼」の扉ページ。劇画工房のマークあり。
摩天楼版「鬼」の扉ページ。劇画工房のマークあり。
5年ぶりに旧友の鬼山一郎へ会いに行く新吾。
5年ぶりに旧友の鬼山一郎へ会いに行く新吾。
5年ぶりに会った鬼山一郎は、殆ど老人のような風貌であった。
5年ぶりに会った鬼山一郎は、殆ど老人のような風貌であった。
鬼山一郎による落石で命を狙われる新吾。鬼山の不可解な行動の理由は? 
鬼山一郎による落石で命を狙われる新吾。鬼山の不可解な行動の理由は?
鬼山一郎の手紙により恐ろしい秘密を知る新吾。
鬼山一郎の手紙により恐ろしい秘密を知る新吾。

  ②鬼/怪奇マガジン版

劇画マガジン版「鬼」の作品扉ページ。こちらは見開き仕様。
劇画マガジン版「鬼」の作品扉ページ。こちらは見開き仕様。
鬼山に会いにいく新吾。移動手段に蒸気機関車を使うところは摩天楼版と同じ。
鬼山に会いにいく新吾。移動手段に蒸気機関車を使うところは摩天楼版と同じ。
鬼山による落石のシーン。
鬼山による落石のシーン。
劇画マガジン版も学生服姿の新吾。新吾は鬼山の恐ろしい秘密を知る事になる。
劇画マガジン版も学生服姿の新吾。新吾は鬼山の恐ろしい秘密を知る事になる。
掲載の劇画マガジン表紙。桜井昌一の他に、いばら美喜、甲斐健二、関一彦の名がある。表紙はいばら美喜。
掲載の「怪奇マガジン」創刊号。 掲載の劇画マガジン表紙。桜井昌一の他に、いばら美喜、甲斐健二、関一彦の名がある。表紙はいばら美喜。
 

絵柄が全く違うので、チラッと見た感じでは同じ作品とは気づきにくいかもしれないが、キャラクター設定に若干の違いがあったりするものの、セリフ回しには共通点が多く、作品の「相似性」は極めて高いと言える。桜井氏は、1962年(昭37)には、マンガの執筆を断念した、と一般的には理解されていることもあり、2回目とした怪奇マガジン創刊号掲載分の方が、制作時期としては古い、という可能性も捨て切れない。
構想だけは、かなり昔からある(例えば1955年(昭30)頃から)、実は摩天楼10集版もリメイク……?怪奇マガジン版は、3度目に描いた物か?など、いくつかの状況が考えられる。

あらすじ新吾は、友人の鬼山一郎から手紙をもらい5年ぶりに彼を訪ねる。新吾が一郎宅へ向かう道すがら出会った老人は、「鬼山一郎は鬼の子孫だから訪ねるのは止しなさい」と忠告する。
5年ぶりに会った一郎は、一気に老け込んでいて、5年足らずの間に少年から老人の風貌に変化していた。一郎に請われ、泊まっていく事になった新吾であったが、気味の悪い体験をすることになる。
一郎は実は一卵性双生児であり、生まれた時から背中にもうひとりの人間を背負っているという。鬼が背中に居て、その鬼が自分に悪事を勧め、拒むと首を絞めるので、苦しさのあまり、鬼の言う事を聞かざるを得ないというのであった。

解説結合双生児(シャム双生児)と鬼伝説を巧みに組み合わせたアイデアが興味深い。アイデア自体は面白いと思うが、桜井氏の独自の画風とのミックス効果を考慮しても、作品のクオリティーは賛否あるところだろう。
意図されたミスマッチと考えれば、なかなかに魅力的な作品ではある。

☆作品紹介7/幻の鹿

 桜井昌一30p/雑誌形式/天下無双第3集/金園社/A5判/1960年(昭35)頃/150円 

あらすじその皮を殿様のところへ持っていけば、賞金十両をもらえるとされる見事な鹿を狙って、近隣の猟師たちが或る村に集まってくる。殿様は将軍にその鹿皮を献上したいらしい。しかし、その鹿は「幻の鹿」と呼ばれ、狙う猟師が既に10人以上、命を落としているという。あの鹿は「神のつかい」であり、追い求める者は必ず死ぬ、そう語る者さえいる。
幻の鹿を巡り、猟師たちの狩りは続き、今日も、また2人が命を落とすのであった。

「幻の鹿」扉ページ。描き込みが少なく白が目立つシンプルな背景は桜井マンガの特徴のひとつである。
「幻の鹿」扉ページ。描き込みが少なく白が目立つシンプルな背景は桜井マンガの特徴のひとつである。
幻を鹿を追う猟師。流れるようなコマ運び。
幻を鹿を追う猟師。流れるようなコマ運び。
あの鹿は神さまの使いである、と祈祷師のような男が言う。
あの鹿は神さまの使いである、と祈祷師のような男が言う。
鹿を撃ち取ったかにみえた猟師であったが、絶命する猟師。やはり、祈祷師の言うとおりなのだろうか?
鹿を撃ち取ったかにみえた猟師であったが、絶命する猟師。やはり、祈祷師の言うとおりなのだろうか?
解説個人的には好きな作品である。作画上のディテールや時代考証が大雑把なという印象は拭えないが、ホラーファンタジー的な雰囲気もあり、他の作家が完全リメイクしたら面白そうだ。絵柄に関しては好き嫌いが分かれそうだ。

☆作品紹介8/牛乳を飲む怪物

 桜井昌一20p/雑誌形式/辰巳ヨシヒロマガジン第3集/金園社/A5判/1960年(昭35)/150円 

あらすじアパート夢路荘の10号室の婦人が産気づいているということで、管理人は産婦人科へ電話する。オギャアオギャアという泣き声がして管理人は10号室へと走るのだが、10号室からは巨大な赤ん坊が走り出てくる。管理人を殴り、そのままどこかへ消え去る赤ん坊。
管理人の通報を受けた轟探偵は、夢路荘10号室へ向かうものの、赤ん坊の母親らしき夫人は絶命していた。その後、巨大な赤ん坊による牛乳屋店主殺害事件が起きる。店の牛乳は、すっかり空になっていたという。そして、同様の牛乳屋殺害と大量の牛乳が盗まれるという怪事件が、又も発生する。しかし、轟探偵の名推理により事件は解決する。犯人は、盗んだ牛乳を安く売って大儲けをしていたのだった。犯人は、「巨大・怪赤ん坊」のおとぎ話を作り出し、警察の目をくらませようとしていた、と「名推理」を展開する轟探偵であった。

「牛乳を飲む怪物」扉ページ。
「牛乳を飲む怪物」扉ページ。
産気づいたので産婦人科へ電話するが……。巨大な赤ん坊が生まれ出てくる。
産気づいたので産婦人科へ電話するが……。巨大な赤ん坊が生まれ出てくる。
巨大な赤ん坊はアパートの管理人を殴り逃走する。
巨大な赤ん坊はアパートの管理人を殴り逃走する。
赤ん坊を使った粉パウダーの広告を見て轟探偵はひらめく。
赤ん坊を使った粉パウダーの広告を見て轟探偵はひらめく。

解説ハクダイによる、上記の拙い「あらすじ」を読んでいただいた方は苦笑しておられるだろうか。いくら昭和35年当時に描かれた作品とはいえ、リアリズム重視のマンガとしては若干稚拙にも感じられるストーリー。盗んだ牛乳を安く売って儲けるために、「巨大な赤ん坊」になって牛乳屋を殺す犯人……。この作品は「ある種のユーモア作品」として理解するべきなのかもしれない。最終ページの右側余白(柱部分)には次のような一文がある。得意のユーモアものをひっさげての登場。桜井昌一氏の「牛乳を飲む怪物」は以外な結末をする。

☆作品紹介9/犯人は誰だ!!?? 問題篇と解答篇

 桜井昌一16p(問題篇が14p、解答篇が2p)/雑誌形式/新書判影第1集/ハイコミックスミステリーマガジン/日の丸文庫・光伸書房/新書判/1966年(昭41)/220円 

犯人当てのクイズ形式の作品。「犯人は誰だ」シリーズとして描かれており、このシリーズは新書判影第3集まで、都合3回制作されている。
上記の「鬼」の作品紹介の箇所でも触れたが、桜井氏は1962年(昭37)年にマンガ執筆を断念している。しかし、この新書判「影」に発表した「犯人は誰だ」シリーズは間違いなく「新作」であろう。このシリーズ2回目、新書判影第2集の桜井氏のあとがきを下記に引用しておく。(明らかな誤字等は修正した)。

ペンのしずく  漫画で表した「犯人さがし」は、7・8年前に初めて世に出たように思います。当時、私達は、めくら蛇におじず、のことわざ通りに、ずい分たくさんの犯人探しマンガを描きました。『影』が新装なり、当時を思い出して誰かが私に描くように依頼されたのでしょうが、本当の所、自信がありません。現代の忙しすぎる読者諸君に、七面倒くさいクイズ物が受け入れられるでしょうか、疑問に思います。しかし、矢はつるから放たれたのです。せいいっぱいがんばる心算です。

 あらすじ黄金で作られたロボットの「黄金虫・おうごんちゅう」が、ある研究所から盗み出された。開発者は言う、黄金中を悪事に利用すれば、人間を破滅させる事も可能だ、と。この黄金虫の開発は、この研究所内部の人間だけが知りえる事実であることから3人の容疑者が浮かびあがる。はたして、犯人は誰なのか?

「犯人は誰だ!!黄金虫(問題篇)」の扉ページ。右ページの柱に「あなたの推理力を験すページ」とある。
「犯人は誰だ!!黄金虫(問題篇)」の扉ページ。右ページの柱に「あなたの推理力を験すページ」とある。
黄金中が盗み出され、警察がやってくる。
黄金中が盗み出され、警察がやってくる。
警視庁には捜査本部が設置され、3人の容疑者が浮かび上がる。果たして犯人は?
警視庁には捜査本部が設置され、3人の容疑者が浮かび上がる。果たして犯人は?
「黄金虫解決篇」は全2ページ。
「黄金虫解決篇」は全2ページ。

解説警視庁に「黄金中捜査本部」が設けられる割りにはあまりにバカバカしいと言わざるを得ないトリックを解明することで、犯人が明らかになる。そのトリックとは、現場の生乾きのコンクリート塀に残された手形が左手なので、犯人は左利きの人間だ、というもの。
ちょっとした息抜きのための娯楽として考えれば悪くはない気もするが、1966年(昭41)という時期を考えると、時代遅れ感は否定できないと思う。私見だが、これより7、8年前に描かれた桜井作品の方が、リアリティーという点に限れば出来が良いようにも思う。桜井氏特有の「シニカルな視点」が背景にあるのかもしれない。もうヤケクソ、どうにでもなれ!!くらいに、投げやり感を感じないでもない。

◎掲載誌の他の作品について

「幻の鹿」併録作品
「●い月」岩井しげお/「浮き丸」浦野イサオ/「紙ひと重」松本やすお/「復讐残酷記」久呂田マサミ/「天無修身読本」メンフラ同人

「牛乳を飲む怪物」併録作品
「殺し屋の歌」「劇画講座」「波紋」以上三作辰巳ヨシヒロ/「俺の後を尾けるな/「裏窓」松本正彦/「殺し屋の群」泉竜太/「御幸運を祈って」太田隆一郎

「犯人は誰だ!? 問題篇と解答篇」併録作品
「傷だらけの憂愁」関一彦/「下宿姫」金子晴お&いわねこプロ/「不完全」沼田清/「おもいつき」K・元美津