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第8期/娯楽作品を中心に活躍(商業的な成功)

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辰巳ヨシヒロ・ヒストリー 第8期 娯楽作品を中心に活躍(商業的な成功)

※文中において、氏名の敬称を一部省略しています。ご了承ください。

辰巳ヨシヒロ作品の魅力の一つに、徹底した娯楽作品として制作された作品群の存在がある。 第8期は、これら娯楽作品が創作の中心となる時期である。とはいうものの、第7期の「独自の人間ドラマ」と、第8期の「娯楽作品」の時代を明確に区別する事は難しい。むしろこれらを区別すること自体無意味であるかもしれない。

徹底した娯楽性の追及

立身出世物、エロ物、ギャンブル物……、無節操とさえ思えるくらいに多岐多様にわたる作品群。週刊雑誌での連載も少なくなく、当時の人気作家ぶりがうかがえる。また、いわゆる原作付き作品の長編も多く、市場の要求に応え、娯楽作品を提供する職業マンガ家として成功した時期であったといえるだろう。借金の返済という現実的な要請もあったのだろうが、アシスタントを擁してのプロダクション制作もそれなりに機能したようである。 残念なのは、作品数、描かれたページ数の多さに比べて単行本化された作品が極めて少ない事であろう。管理人ハクダイもそのほとんどを読めていない状態である。
辰巳本人は、この時代の自身の作品についてあまり良くない印象をお持ちのようだが、「読者に受ける」マンガを描くことに徹するという、ある種の職人気質も感じられる。

辰巳ヨシヒロ本人制作の年譜より引用

*1973年(昭48)/38歳 読み切りを中心に多くの仕事をこなす。
*1974年(S49)/39歳 連載作品が増え、経済的に安定する。ヒロ書房の借金返済も無事完了。
*1975年(S50)/40歳 エロティックなものが流行。連載作品をお色気路線に切り換えるが、心情的にバランスを崩し、描いていくのに苦悩を覚える。
*1978年(S53)/43歳 麻雀物、パチンコ物まで手を延ばし、なんとか新規開拓を、と狙うが、無理に慣れないテーマを描くことがいよいよ苦痛となる。

◎作品紹介/めかけ

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画サンデー/実業之日本社/1974(昭49).5.28号~1974.8.17号/全13回/全337p 

*原作なし。単行本化されていない。

*「本格官能劇画」と作品扉には付されている。

*主人公は中年男の「色道・いろみち」。愛人を持って楽しく気ままに暮らす、という普遍的な欲望の価値観を前面に出した「男の夢を叶えます」的な娯楽作である。毎回登場する「愛人」さんが楽しいですね。

 

「めかけ」の作品扉ページ。5、8、12回の3回分。
「めかけ」の作品扉ページ。5、8、12回の3回分。

 

◎作品紹介/銭牝/原作:花登筐

 辰巳ヨシヒロ/原作:花登筐/1974年(昭49)~1975年(昭50) 

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画TIMES/芳文社/1974(昭49).7.6(13)号~1975(昭50).2.15/全30回/全835p 

花登筐による原作は、このマンガのための書き下ろしであると思われるが、もしかしたら花登氏の小説が原作である可能性もある。

*単行本は、芳文社コミックス(B6判)全3巻。巻数標記はないが、実質的には1~3巻までが次の副題で刊行。詳細は不明だが、連載時の扉ページを除いてほぼ全てが単行本化されているようである。

原色乱舞編(発行1975(昭50).2.1)/金色野望編(発行1975(昭50).4.1)/妖色多情編(発行1975(昭50).6.1) 

*結局、単行本化はこの芳文社コミックス版のみでしか行われていないのが残念であるが、2013年(平25)8月25日に「京都国際マンガミュージアムえむえむ」で行われた「辰巳ヨシヒロトークショー」にて、質問に答える形で辰巳氏が語ったことによれば、いわゆる「コンビニコミック」での刊行が企画されていたようである

*近年の日本の感覚では広く受け入れられにくい問題作かもしれないが娯楽作品としては一級品である。金・かね・カネ……金の亡者、金銭欲に憑りつかれた女の生き様をコミカルに、そして幾分エロティックに描き切った会心作である。

◎作品紹介/見切り千両/原作:清水一行

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画TIMES/芳文社/1975(昭50).2.22号~1976(昭51).1.3/全45回/全1231p 

*この作品は梶山季之の同名小説のマンガ化作品である。原作小説は講談社が主宰していた「小説現代ゴールデン読者賞」の1970年(昭45)下期の受賞作。大正時代の「相場取り引き」を主要舞台に繰り広げられる、壮大な復讐劇だ。

*単行本化はされていない。梶山季之原作の横山まさみち作品の多くが単行本化された事などを考えると、この作品が単行本化されなかったのは大変残念である。

「見切り千両」9回目扉ページ。
「見切り千両」9回目扉ページ。

 

◎作品紹介/ふてえ奴

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画TIMES/芳文社1976(昭51).1.10号~1976(昭51).12.31/全48回/全1300p 

*原作は経済小説の第一者として知られる清水一行の小説。1971年(昭46)に双葉社より発行されたものと推測している。

*単行本化はされなかった。

*連載時は、原作:清水一行、脚色・作画:辰巳ヨシヒロとクレジットされている(全ての回については未確認)。

*明治の終わり頃に郷里の金沢より単身上京した18歳の高原陽平の人生を描いた、立志伝的な作品。幾分、好色ロマン的なところもあるが、明治時代に実業家として成功していく男の生き様が堪能できる。単行本化されていないのが、いかにも残念である。

「ふてえ奴」第2話、第34話 扉ページ。
「ふてえ奴」第2話、第34話 扉ページ。

 

◎作品紹介/ザ・ギャンブラー/原作:花登筐

 辰巳ヨシヒロ/ヤングコミック/少年画報社/1976(昭51).1.14号~1978(昭53).10.11号/全 67回/全 1590p 

*銭牝同様に、花登筐による原作は、このマンガのための書き下ろしであると思われる(こちらも、花登氏に同様の小説があるのかもしれないが)。

単行本は新書版で1巻のみが刊行(少年画報社)されている。全1590p(扉も含むと思われる)のうち、約310pのみが、この1巻に収録されており、本来なら全5~6巻となる分量だけに、残念である。

*単行本1巻と、数回分の雑誌掲載分しか読めていないが、過去の人物の立志伝ではなく、昭和リアルタイム、おそらく終戦直後の昭和20年代前半頃に生を受けた「倉丁也」というギャンブラーの物語。

◎作品紹介/おっぱだか/原作:久保田千太郎

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画TIMES/芳文社1977(昭52).1.7.14号~1976(昭51).10.14号/全40回/全1069p 

*原作は久保田千太郎。この作品のための書き下ろし原作で、先行する小説等はないと思われる。

*単行本化はされなかった。

*「痛快連載ストリップ人生」とあるように、エロ的要素を前面に押し出した作品だが、辰巳作品らしい人間模様が楽しめる作品となっている。

「おっぱだか」扉ページ(最終話と第13話)。
「おっぱだか」扉ページ(最終話と第13話)。

 

◎作品紹介/てっぺん○次

 辰巳ヨシヒロ/漫画ホット(秋田書店) 1976(昭51).6.18号~、連載移行し、トップコミック(秋田書店) 1978(昭53).1.10号~連載期間の詳細不明/全82回/全1997p 

秋田書店の2つの雑誌に1976年(昭51)6月~1979年(昭54)10月頃まで、長期連載された。

*秋田書店の秋田漫画文庫(文庫本、A6判)で1、2巻の2冊が単行本化されている。この2冊には、総ページ数約440p、話数にして18話(回)分が収録されているので、単純に考えて、1500p分の未単行本化(未収録)分があることになる。

約2年半にわたる連載は、辰巳ヨシヒロの作品上、最長連載の部類に入ることは間違いない。また、ページ数で考えても最長の部類である。

*小林よしのりのヒット作「おぼっちゃまくん」の大人版的な側面を多分に持つ本作、辰巳ヨシヒロの持つブラックさが味わえる怪作かもしれない。

◎作品紹介/懸賞狼/原作:梶川良

 辰巳ヨシヒロ/週刊漫画TIMES/芳文社/1978(昭53).6.22号~1978(昭53).11.30号/全24回/全600p 

*単行本化は2回

WORLD COMICS(ワールドコミックス)/久保書店/B6判/全3巻/1980(昭55)年
久保書店リターンフェスティバル/A5判/上下巻の2冊/2007(平19)年

*辰巳氏によるマージャン物だが、梶川氏とのコラボレーションは成功しているといえるだろう。

◎作品紹介/トルコ野郎&男たらし

この2作品は全く別作品であるが、『コミックブック』3月号(1978年(昭53)/芸文社)としてB5判雑誌形式で単行本化されているのであわせて紹介したい。 

男たらし
 辰巳ヨシヒロ/漫画レッド/芸文社/1977(昭52).1.13号~1977(昭52).7.14号/全13回/全342p 

トルコ野郎
 辰巳ヨシヒロ/漫画レッド/芸文社/1977(昭52).8.11号~1978(昭53).11.17号/全6回/全187p 

*B6判雑誌版「トルコ野郎」に収録されているのは、トルコ野郎が6回(話)分、男たらしが2回(話)で、男たらしは巻末収録のページ合わせ的な印象。トルコ野郎はストレートなタイトルそのままの内容で、商業べースで考えれば「成功作」だろう。

*トルコ野郎の方がエロ度は高めで、艶笑コミックという言い方があてはまるかもしれない。ハードボイルドとアクション的な要素はほとんどない。

*男たらしは、全13回の2回分を読む限りではエロ要素が多分にある社会派ミステリーロマンという印象である。

◎作品紹介/バージン戦争/原作:小堺昭三

 辰巳ヨシヒロ/連載:漫画天国/芸文社/1977(昭52).10.13号~1978(昭53).7.20号/全20回/全537p 

*原作は小堺昭三の同名小説(1977(昭52).2/集英社)。この小説が連載分をまとめたものなのか、書き下ろし小説なのか等の詳細は不明である。

*単行本化は、1978年(昭53)『増刊漫画天国』6月15日号(B5判)、として「バージン戦争・吉原編」が刊行されている。この「吉原編」はページ数約280pであり、ほぼ半分は最初に雑誌掲載されたままの内容で、その後まとめられてはいないようである。

◎作品紹介/感じすぎる女・辰巳ヨシヒロ官能傑作集

 辰巳ヨシヒロ/「自販機本」としてSND出版より出版/200円/発行日の記載なし 

掲載作は収録順に、次の6作。この傑作選にはタイトルのみしか表記されていない。掲載誌情報については著者年譜を参照した。

色あわせ/週刊漫画TIMES/芳文社/1973(昭48).10.6号/28p
したたかな女/増刊ヤングコミック/少年画報社/1975(昭50).4.30号/30p
ささやく女/増刊ヤングコミック/1975(昭50).5.27号/28p
ふざけた女/増刊ヤングコミック/1976(昭51).1.13号/24p
感じすぎる女/増刊ヤングコミック/1976(昭51).1.13号/24p
柳ケ瀬の女/増刊ヤングコミック/1974(昭49).8.27号/25p

*この総集編には他に、岩科シュンさとうさとおの両氏による各4pのコママンガが掲載。

*「自販機本」として発売された官能マンガのシリーズだったと推測するが、文学性、叙情性が高すぎてエロ劇画に「実用性」を期待し、表紙で判断して購入した読者には思いのほか不評であったのではないだろうか?

*1pのみであるが「劇画界の巨星 ”劇画”の命名者 辰巳ヨシヒロ」と題された無記名の「著者紹介~作品解題」の一文が掲載されている。この一文が良い意味でも悪い意味でも自販機本らしからぬ、真っ当なマンガ評論で、いろんな意味で、不可解な一冊となっている。この本の発売の経緯、目的が、どうにも見えてこない。

*古い情報で恐縮だが、「まんだらけ」のwebサイトで商品情報がアップされている。(2011年(平23)掲載。)

商品紹介の文中の「作品集を実用性重視で購入された方の事を思うと、本当にお気の毒としかいいようがありませんが…」というくだりには同感だが、「世界のTATSUMIの不遇な時代を象徴する流通の形態と造本」という一文には違和感をおぼえた。辰巳の65年に及んだマンガ家のキャリアを考えると、「不遇」と一言で片付けるのは不適当だと思う次第である。